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8ページ目『剣の墓場』 ◆―◇―◆―◇―◆―◇―◆―◇―◆ 前回までのあらすじ 世界中の神姫が、ただのフィギュアになっちゃったみたいです。 なんで? とは聞かないでください。 私だって、キャッツアイを名乗る3バカ神姫に出会うまで、イルミのことをすっかり忘れてしまっていたんです。 かと思いきや、ただのフィギュアから目を覚ましたイルミはすぐにいなくなって、代わりに現れたのは射美と名乗る、私と瓜二つの小さな女の子。 しかも射美ちゃんは、自分は私と弧域くんの子供だと言い張り、押し切られるように私達は一緒に住むことになってしまいました。 何が何やらサッパリなまま、私のことをママと呼ぶ射美ちゃんと一緒に、一晩を過ごすのでした。 ◆―◇―◆―◇―◆―◇―◆―◇―◆ 「天才子役っているじゃない、小さいのにテレビに出てる子。すっごくチヤホヤされて持ち上げられるけど、あたしは子供をドラマに起用するのは無理があると思うの。嫉妬してるんじゃないよ、別に役者さんになりたいとか、思ったことないわけじゃないけど、どうでもいいし。そういう子の演技見てると、すぐ泣けたりするのはすごいけど、台詞は全部棒読みじゃない。しかもヘタに演技しようとして声が不協和音っぽくなってる子までいるし」 「その点、小説なら役者がいらないから大丈夫かなって思ったんだけどね、やっぱり難しいみたい。作家さんが文字を並べるだけだから、特攻服着たヤンキーがしんみりして哲学的なこと言ってたりするんだもん。って、あたしも人のこと言えないかな? 小説家目指してるママなら分かると思うけど、難しいよね」 「『一ノ傘』って苗字も好きなんだけどね、あたし、『雲呑(くものみ)』って苗字に憧れててたんだ。なんか響きがカワイイでしょ、ママもそう思わない? 将来は雲呑って苗字の男の人と結婚しようって考えてたくらいなの」 「でもね、にゃふー知恵袋で聞くと、雲呑って『ワンタン』って読むんだって分かって、すごくショックだったの。あたしのあだ名は絶対『ワンタン麺』に決まっちゃうじゃない。でもワンタン麺って食べたことないんだけど、おいしいのかな? ママは食べたことある?」 「武装神姫で日本一強い人って知ってる? 竹姫葉月っていうお姉さんなんだよ。神姫はアルテミスっていうアーンヴァルなんだけどね、悪い改造した神姫でも簡単にやっつけちゃうんだって。『もう死んでもいいから勝ちたい』って覚悟して違法な改造した神姫でも、全然勝負にならなくてあっさり負けちゃうんだってよ。神姫の世界も世知辛いよね」 「そんなに強い神姫でも、インターネットの対戦でなかなか勝てないところがあるらしいよ。そこに集まる神姫は悪い改造はしてないんだけどね、へんてこな神姫ばっかりなんだって。レーザーで魔法陣を描くシュメッターリングとか、ワープできるバイクに乗ったエストリルとか、12人の神姫を糸で操るクーフランとか、自分は硬い箱にこもったまま毒ガス攻撃するズルいマリーセレスなんてのもいるんだって。聞いてるだけでもすごそうだけど、たぶんその神姫達のバトルって、極端すぎて見ててもあんまり面白くないよね。でも今は世界中の神姫がただのフィギュアになってるから、関係無いか」 慌ただしかった昼間が嘘のように、夜の色に落ち着いた姫乃の部屋。母と娘二人の、布団の中から聞こえてくるおしゃべりは、明け方になるまで続いた。といっても話のほとんどは射美が一方的にしゃべるばかりで、姫乃は専ら相槌をうつだけだったが、射美にとってはかけがえのない時間だった。 ママと同じ布団に入っていれば、悪夢に怯える心配なんてしなくていい。どんな話でも聞いてくれるママがいてくれれば、明日もきっといい一日になる。 射美が信頼を寄せる姫乃と弧域は、最初こそ少し難色を示しても警察に突き出すような心ないことをせず、たとえ様子見であっても、射美のための居場所を作った。愛情を求める子が心安らかにいられる、大切な場所を。 弧域と姫乃の部屋は別れているから「今日はね、う~ん……ママと寝る!」と射美は選んだ。隠し切れないほどのショックを受けた弧域は、射美と明日一緒にお風呂に入ると約束をした。当然姫乃が却下したが。 夕食を弧域の部屋でとり、姫乃の部屋に戻った母子二人、女の子同士の夜は、いつまでもいつまでも、幸福に満ちていた。 結果、姫乃は体調を崩した。 弧域との喧嘩。 心を取り戻した神姫。 そして射美の登場。 それらをたったの数時間の中で経験し、さらに機嫌を持ち直した射美は姫乃と二人でベッドに潜った後も睡魔を尽く退け、姫乃は夜通し娘(仮)の話に付き合う運びとなったのである。 途中で(あ、これ明日はダメかも)と軽い絶望を感じつつも、ついに射美の笑顔を崩すことなく明け方まで耐え切った姫乃は、早くも一人の母としての偉業を成し遂げたと言っても過言ではない。翌朝、体温が38.2度を記録したことからも、いかに姫乃が頑張ったかが伺える。 「ダメだよ、弧域くんはちゃんと学校行かないと。それより、今日の代返お願、ケホッ、ご、ごめん…………う、うん、なんとか大丈夫、かな」 「射美ちゃん? まだ私の横で寝てるよ。寝顔は天使みたい。私達の子供だからね……にはは、冗談よ」 「世話を任せたいのは山々なんだけど、たぶん昼過ぎまで起きないわよ。昨日からず~っとおしゃべりしてたもん。だから3限目の最後の講義が終わったらすぐに帰ってきてくれると嬉しい、かな。射美ちゃんが起きると思うから、二人で下着とか買ってきてくれると……無理? でも私のお下がりってわけにもいかないし……そうそう、頑張ってカワイイのを見繕ってあげてね、パパ」 「じゃあ帰りに風邪薬、お願いね。……うん、弧域くんも風邪をもらってこないように、ね」 通話を切ると、携帯が姫乃の手から枕元に滑り落ちた。拾い直す気も力もない姫乃は射美と自分の布団をかけ直し、目を閉じた。 看病のために学校を休むと弧域が頑なに主張するのは、姫乃が体調を崩す度のことだった。そして姫乃の部屋に入ろうとする弧域と、意地でも禁断の部屋に入らせまいとする姫乃の電話での応酬も、これまたいつも通りである。 普段ならば妥協案として、姫乃が弧域の部屋のベッドを使うことにしている。やつれた顔を見られることにかなりの抵抗があっても、体調を崩した時はどうしても気が弱くなり、独りきりでいることが心細くなってしまうからだ。 隣に射美がいるから寂しくはない、と言えるには言えたが、姫乃にとって射美はあくまで面倒を見るべき子供であり、ましてや自分の看病をさせるなどもっての外である。 すやすやと安らかに眠る少女は、普通ならばこの時間は学校に行く支度を済ませていなければならない。しかし射美にその記憶がない以上、弧域と姫乃は射美を送り出すことすらできないでいる。 (警察に行くのが正しいかどうか分かんないけど、どこかに相談しなくちゃ……身元が分かるまでここにいてもいい、って言えば、射美ちゃんも分かってくれる、よね) やむを得ないとはいえ、子供の大切な時間を自分の部屋に閉じ込めてしまうことに負い目を感じている姫乃は、風邪のせいで射美と始めた家族生活が早くもつまづいたことと相まって、かなり気を滅入らせてしまっていた。 カーテンの外は、昼も雲ひとつ無い青空を約束してくれそうな快晴。ボロアパート前の狭い道を、数分間隔で車が通っていく。そんな外の天気など知ったことではなく、静かに意識をまどろみの中に落としたい姫乃だったが、残念ながら、そうは問屋が卸さない。 何の前触れもなく、カラカラと窓が勝手に開いた。鍵は確かに閉まっていたはずだが、どうやって開錠されたのかは定かではない。カーテンが揺れて、眩しい光と新鮮かつ極寒の冷気が室内に容赦無く入り込む。 自分の空間から外部との繋がりを断ちたい時ほど、狙いすましたように宅配が届いたりセールスマンの襲撃にあいやすくなるものである。姫乃が体調を崩した原因のひとつである迷惑極まりない3匹の来訪はきっと、そういうことだった。 「おんやぁ? ホシはどうやらまだおネムのご様子。ここは一発、ワガハイの寝起きバズーカで目覚めさせてやるってのはどうにゃ」 寝起きバズーカやりたいんだったら静かに入ったらどうなのよ、と少々的外れなことを考える姫乃だった。 2日連続、しかも最悪のタイミングで無断侵入してきたキャッツアイの3匹、カグラ、ホムラ、アマティに対して、姫乃には怒る気力すら持てなかった。しかし、さすがに部屋の中で、小型とはいえ本気でバズーカなど構えられては無視するわけにもいかず、姫乃は渋々話しかけざるを得なかった。 「ゴホッ……お願い、今日はちょっと、静かにしてくれない、かな」 「なんにゃ、起きてたのにゃ。オマエが寝てる間に箪笥の中を物色するイベントとどっちをやろうか迷ったんにゃが、両方無駄になったにゃ。ヒロインを張るにゃら、朝はちょいエロイベントのひとつもこなしてほしいもんにゃ。ところで、そっちのロリはオマエの隠し子かにゃ?」 「そんなこと言ってる場合ですか。姫乃さん死ぬほど体調悪そうですよ」 アマティだけは姫乃の容態にいち早く気付き、気遣おうとする。できるならば部屋に侵入する前に気遣いをしてほしいと思う姫乃だった。 「あの、本当にごめんなさい。また出直します」 「今日の用事は隣室だろう、さっさと済ませて引き上げるぞ」 姫乃の懇願を聞いてか聞かずか、3人はあっさりと引き下がっていった。パタン、と窓が閉まり、部屋に再び平和が戻った。 ほんの短いやりとりではあったが、昨日のことを思えばあの3人が何をやらかしてくれるか分かったものではなく、姫乃の精神がさらにすり減ってしまった。 (あの3人もいなくなったし、弧域くんに……だめね。あの3人、弧域くんのエルを目覚めさせるんだっけ) 昨日、弧域は一度動く武装神姫――キャッツアイの3人を見ても信じようとせず、現実逃避してしまった。そのことを気にかけていた姫乃は、弧域に余計な心配をさせまいとして、今朝の弧域の看病を泣く泣く断ったのだ。弧域にしてみれば射美との顔合わせにより耐性がついていたのだが、事情を知らない弧域と朦朧とした姫乃には知る由もない。 「んん……なぁに? なにか言った?」 姫乃の隣で幸せそうに寝息を立てていた射美が目をこすり、開いた薄目が母親の顔を見つけた。 「あ、ごめん。起こしちゃった、かな」 「にはは。ママ、おはようのチュー」と姫乃のおでこに唇をつけた射美は「あっちぃ!」とすぐに離れた。 「ママ熱々! うわ、顔は真っ赤なのに唇は真っ青だよ!?」 「ごめんね、情けないママで、ケホッ、あんまり近づくと風邪うつっちゃ――」 「大丈夫!? どこも痛くない!? バイキンが悪いの? ママを体内からいじめるバイキンが悪いの? あたしが吸い取ってあげれば治る? じゃあもう一回チュー」 「んむっ!?」 姫乃に待てとすら言わせない電光石火の技だった。瞬きの間に合わされた唇、そこから全身でしがみつくように射美は手足を姫乃の体に回った。 誰もが羨む美少女、瓜二つの母娘がベッドの中でもつれ合う。乱れた髪が朱い頬を流れ、互いのすべてを奪い合うような口づけは、傍目に見れば燃え上がる恋人のそれに近い。 姫乃にとっては勿論、そこに情熱などあったものではない。 弧域にすらされたことがないほど強烈に吸い付かれ、バイキンどころか僅かに残っていた気力を奪い尽くされた姫乃は、もうされるがまま、時折ビクッと全身が硬直する以外は小指の一本すら動かせなかった。 「んむ……んふふ♪」 口づけ、いやもはや吸血に近いそれを続けていくほど、射美の表情は艶を増し、姫乃の表情からは生気が抜けていった。 (もう好きにして……あ、あれ? この感覚……) 無闇矢鱈な射美の愛情表現に快感すら見出し始めた時だった。薄れ行く意識の中で姫乃が覚えた感覚は、つい最近味わったものに似ていた。 ベッドのシーツが湖になったかのような、底へ底へと沈んでいく感覚。確かなものは射美と繋がる唇だけ。 いっそ心中とでも錯覚しようか、二人は暗い場所へと落ちていった。 「うっひゃあ、いきなり目の毒です! ――じゃなくて姫乃さん!? あなたは何が楽しくてまた自ら異空間に飛び込んできたんですか!」 「隣室だったからな。恐らく異空間の発生時、その神姫のマスターであるなしに関わらず、物理的に近い人間も巻き込まれるのだろう」 「ワガハイ、オマエのことを誤解してたにゃ。こんな時まで青少年育成条例に背を向けておんにゃの子に手を出すにゃんて……その意気やヨシ! オマエのただれた趣味はワガハイがメモリー(HDD)に永久保存してやるにゃ!」 パシャパシャと神姫サイズのカメラ(カグラが盗撮のために開発したもの)のシャッターが切られる音に気付いた射美は、あわてて姫乃を解放して立ち上がった。ブカブカの姫乃のパジャマの袖を振り回しての猛抗議である。 「ちょっとー! あたしとママのキスはあたしたちだけの宝物なんだからね! 勝手に撮っちゃダメ!」 「い、今ママって……姫乃さん、イチ神姫として勉強させてもらいました、ごちそうさまです」 「オイ、その姫乃が三途の川で溺死する寸前の顔をしているぞ。大丈夫か」 ホムラに言われ、アマティ、カグラ、それに射美は未だ倒れたままの姫乃の顔を覗き込み、息を呑んだ。 射美が着ているものとは色違いのパジャマのまま、姫乃はフローリングの床に倒れていた。 熱があるのだろう、顔が部分的に赤い。 しかし体力は底をついているのだろう、生気がない。 何か悲しいことがあったのだろう、目は充血して涙が漏れている。 寒いのだろう、鼻水が出放題である。 射美と愛を確かめ合いすぎたのだろう、口元がヨダレまみれである。 キスの最中で舌を噛まれたのだろう、だらしなく覗く舌に歯形がついている。 大学構内ですれ違えば誰もが振り向く、弧域一人のモノとしておくにはあまりに惜しい美貌。「にはは」と見せてくれる笑顔は太陽よりも眩しく光り輝く向日葵のよう。 大学1年の時、学園祭で開かれた美少女コンテストにわけもわからず出場させられ、観客の視線を独占してしまい、横に並んだ諸先輩方に睨まれたことがあった。 それほどである。それほどの面影は、もはやどこにもなかった。 「ママ、涙はいいけど、ハナミズとヨダレはヒロイン的にアウトだよ」 「そういう問題か?」 「しっかりしてください!どこか隅っこに運びましょう、ここは本当に危ないです!」 「せっかくにゃから、このベッドに寝かせたらどうにゃ。ちょっとデカいにゃが」 カグラ達はサッカーコートほどの広さの天井の下にいた。その天井こそベッドの裏面なのだが、たとえ姫乃の体調が良好であったとしても、それが弧域のベッドであると理解するには少し迷ったかもしれない。 ベッドを縦方向に二分して、片側は薄暗く、もう片側は明るい。 薄暗い方に見えるのは、姫乃の部屋にあるものと同じ机や本が散らかった本棚など、弧域の部屋そのものだった。 明るい方はといえば、まず床がフローリングではなく光を反射する色とりどりのタイル敷きだ。そして棚が整然と並んでおり、武装神姫の箱やパーツが陳列されている。姫乃達のいるベッドは、弧域の部屋と、どこかの神姫ショップ店内の中間にあった。 それだけでも異様といえる空間だが、さらにこの空間には特徴といえるモノに溢れている。 「やだ、なにこれ……全部お墓?」 「フン、言われてみれば墓にも見えるな。だがこれらはすべて剣だ」 硬いはずの床から本棚の本、ショップの商品にまで、ベッドの下以外の見える範囲すべてに、乱雑に大小形状様々の剣がびっしり突き立っている。その数は見える範囲だけでも千本を優に超えている。 剣の多くに鍔があり十字に見えるので、射美は西洋風の墓と勘違いしたのだ。あるいはここは、剣そのものの墓場なのかもしれない。 「ここがあの、エルさんの創る世界……なんだかエルさんの印象と違って、不気味ですね」 「にゃんてったってアルトレーネだからにゃ。性根が歪んでるのは想定の範囲内にゃ」 「殴りますよ」 「貴様ら、巫山戯るのはここでお終いだ」 身長以上に柄の長いハンマーを水平に構え、ホムラはフローリングとタイルの境目を跨ぐように立った。その境目の先、ベッドの天井から出たところにいつの間にか現れていたのは、金色の長髪、鉛色のロングコート、そして白く武骨な機械仕掛けの脚が特徴的な、戦乙女型アルトレーネ、エル。 俯いているため前髪が影になり、その表情をうかがい知ることはできない。 彼女も武装神姫ではあるが、ロングコートと脚の機械以外には何も持っていない。空いた両手が、側に突き刺さっている二本の剣を掴む。片方は装飾過多と見える大剣、もう片方は逆にシンプルなロングソード。その二本を構えるでもなく、これからジャグリングでも始めるかのように、真上より少し前方に放り投げた。そしてサッカーのボレーシュートよろしく、落下してきた剣を二本まとめて蹴り放った。 滅茶苦茶な軌道だが、その速さはライフル弾にも匹敵する。 「ぬっ!? うおおおおおおっ!」 飛ぶ剣にホムラはハンマーを合わせた。が、叩き落せたのはロングソードだけで、もう一本はホムラの背後へと飛んでいく。 「にゃほぁあ!? け、剣がいまワガハイの首元を通ったにゃ! 九匹に一鰹節にゃ!」 「まさか九死に一生って言いたかったんですか?」 「アマティの背面だ! 次が来るぞ!」 射美と姫乃を挟んでホムラの反対側にいるアマティは、ホムラの言うことを信じるどころか考えもしなかった。たった今、剣はアマティの正面から飛んできたばかりである。だからアマティは、ホムラが「俺の背面」と言い間違えたものとして、自らの剣を抜いて正面へ躍り出ようとした。 その瞬間、アマティの視界に火花が飛んだ。前のめりに体が倒れそうになり、床に手をついて姫乃を押し潰すことだけは回避できたものの、背中に走る激痛が堪えさせてはくれず、姫乃の隣に崩れ落ちた。 「きゃあっ!? だ、大丈夫……?」 慌てて近寄ろうとする射美を手で制したアマティは、未だ視界が安定しない中、背後を確認する。そこには【やはり、既に誰もいなかった】。 「わけわからんにゃ、アイツはアルトレーネじゃなかったのにゃ!? サイキッカー型が東京の立川以外の町にいるなんて聞いて無いにゃ!」 「アレはテレポートしているわけではない。一度見た神姫の技くらい覚えておけ、剣を周囲に叩きつけて得られる推進力を脚力に加える奴がいただろう」 解説しつつホムラは、再び別の方向から飛来した剣を弾いた。目の焦点を剣に合わせる間に、エルは姿を消してしまう。 「このベッドの上を移動しているのだろう。信じ難いスピードでな」 「アイツ一人に囲まれてるようなもんにゃ、ここにいたら格好の的じゃにゃいか! 早いとこベッドから出るにゃ!」 「だがな、このベッドの下だけ剣がない分、安全だぞ。奴が剣を使い捨てられるのは剣が突き立っている場所だけだからな。それに――」 側面から回転しながら飛んで来た二本の剣を、ホムラ、カグラがそれぞれ弾いた。ホムラは難なく防いだが、カグラは尻餅をついてしまう。 「奴は、この小娘二人を巻き込むことに対して、まったく躊躇を持ち合わせていないらしい」 言いつつホムラはチラリと射美と姫乃を伺った。 姫乃の状態は最悪だった。見て取れるほど体を震えさせ、縮こまってしまい移動どころか立ち上がることすら困難になっている。神姫云々よりも、一刻も早く適切な処置が必要だった。 「射美のパジャマも着てよママ……まだ寒い? ママ、ママ……うわああああああんママ死んじゃやだあああああ……」 上着はキャミソール一枚だけになり、泣きながら姫乃の体を懸命にこすってやっている射美も、動ける状態にはない。 「あ、今ネコ的な勘がビビビッときたにゃ。ほむほむ、ワガハイ達が置かれてる状況は【絶体絶命】じゃにゃいか」 「ホムラと呼べ。貴様はそのネコ的な勘とやらでようやく真っ当な状況判断ができるんだな。しかし今更愚痴も言ってられまい。アマティ、そろそろ起きろ」 「ランキングがなんぼのもんじゃーい!!」と叫びながら、うずくまっていたアマティが飛び上がった。 モード・オブ・アマテラスが発動し、スカート状のアーマーが左右に大きく展開された。先端の鋏のように開閉可能な部分は左右どちらもガッチリと、迫っていた剣を掴んでいる。 「ちょっと私より戦績がいいからってあの戦乙女、図に乗ってんじゃないわよ! つーかロングコートなんか着ちゃった戦乙女が世界のどこにいんのよ! ミ○キーもキングダムハーツでコート着てたって? 知らないわよクソがっ! アルトレーネは、こ、の、装備一式揃えてはじめて戦乙女だっつーの!」 「アマティ、児童ポルノが怯えてるにゃ」 「ああ? 何よ、児童ポルノって」 ほれ、とカグラに指差された射美は、あんまりなあだ名を付けられたことにも構わず、姫乃を覆い隠すように体を広げて抱きつき、まるでチェーンソーを持ったジェイソンに追い詰められたような目でアマティのことを見ている。 コホン、と咳をして気を落ち着けたアマティは、児童ポルノもとい射美に向かってとびっきりの笑顔を作った。 「にぱー☆」 「ひぃっ!?」 頭を抱えてうずくまってしまった射美と笑顔を引きつらせたアマティの間に、修復不能に近い溝ができてしまった。射美にとって長い人生(そんなものが射美にあったかどうかはともかく)の中でもっとも多感な時期である今、【突然豹変する金髪のお姉さん】というトラウマを植えつけたアマティの罪は重い。 「子供に嫌われるのって、結構ヘコむわね……」 「アマティはアマテラスを維持したまま姫乃と射美を守れ。アイツは俺とカグラで狩る」 「倒すならさっさと倒しちゃってよね。これ以上時間をかけて姫乃さんが危なくなったら、私はもっと射美ちゃんに嫌われそうだし」 「ほむほむと一緒にバトるのは久しぶりだにゃあ。二人でこの町のネコ大将を倒した時のことを思い出さにゃいか?」 「二人で? ……ああ、そういえば貴様が漫画を真似て作ったビッグプチマスィーンが自爆したせいで、その場にいた全員が死にかけたんだったな。思い出したら腹が立ってきたぞ、貴様後で――」 「な、なんのことかサッパリ分からないにゃあ。ワガハイとほむほむって実はまだ一緒にバトったことがないんじゃにゃいか、きっとそうにゃ! よーし今こそコンビネーションのお披露目の時にゃ! あのネコミミのないギュウドンを血祭りにあげてやるにゃー!」 カグラがホムラから逃げるように走りだしたことで、状況が動いた。これまでエルは大雑把にカグラ達の集団を狙って剣を蹴っていたが、今度はベッドの下から外に出ようとするカグラに的を絞った。 「誰もベッドの下から出さないつもりか? フン、確かにこちらに火器持ちはいないからな、一方的な今の状況を崩したくないのか」 ホムラの推理は実はまったく的を射ておらず、エルは単純に集団から外れて目についたものをターゲットとしただけだった。頻繁に位置を変えて遠くから剣を放つのも、エルが考えた戦術ではない。 剣を蹴り飛ばす技を持っていて、いくら使っても使い切れないほどの剣があり、ターゲットが一箇所に固まっていて狙いやすく、遠距離攻撃を想定した神姫の本能として頻繁に回避行動を取る。この4点だけがエルの行動基準になっていた。 アマティ達が最初に姫乃に説明した通り、心を持たないフィギュアの状態から目覚めて異空間に閉じこもる神姫は、それほどまでに正気を失っていた。 なぜ正気を失い、異空間を作り出し、誰彼構わず襲いかかるのかは分からない。しかし、不明確なことが多かろうが推理が外れようが、ホムラにとってそんなことは関係無かった。 「フィギュアになっていたせいか、丁度体がなまっていたところだ。リハビリがてら狩らせてもらうぞ、戦乙女」 カグラは毎度の如く囮の役目を十分に果たしている。ベッドから出ることも忘れ、連続して放たれる剣の弾丸からひたすら逃げ惑っている。 カグラを執拗に狙うあまり、エルはあまりに隙だらけだった。エルに向かって、ホムラは音を立てずに走り出した。 「誰がデコイをやるって言ったにゃ! ワガハイの強靭かつフカフカな肉球は刃物とは相性が悪ぃにゃほぁっ!? い、今モミアゲを持ってかれたにゃ! コレ死ヌマジ死ヌ助ケテほむほむぅ!」 「俺の名はホムラだと言ってるだろォ!」 助走をつけたハンマーのフルスイング、『グレーゾーンメガリス』がエルを真横から撃ち抜いた。 カグラしか見ていなかったエルは、まったく無防備にホムラが持つ最大威力の技を受けてしまった。鈍い打撃音と共に水平に吹っ飛び、床に突き立った剣を数本なぎ倒す。 『グレーゾーンメガリス』はあまりに大振りで隙だらけの技なので、普通のバトルで使用されることはほとんどない。ホムラが覚えている限り、公式ルールのバトルで使用したのは対戦相手が障害物に隠れて出てこなかった時に、その障害物ごと打ち砕いた一度きりだった。 稀に見るクリーンヒットの感触がホムラの両手に伝わる。ピッチャーが投げたストレートをフルスイングで返すような爽快感に、ホムラは顔に出すことなく酔い痴れた。 「ひぇ~ほむほむ超こえぇ~。今のはやりすぎにゃろ、正気に戻る前にジャンク屋行きになっちゃうにゃ。ほむほむは手加減ってものを知らにゃいのか」 「不要な心配だな」 ホムラは剣がなぎ倒されてできた道を走り出した。その先でエルは、カグラの予想に反して、剣を支えにして立ち上がった。 ハンマーが振り下ろされる瞬間、エルは髪を掠るギリギリのタイミングで床を転がることで逃れた。立て続けにホムラが踏みつけようとするのを再び転がって回避し、落ちていた剣を拾ってホムラから距離を取った。 剣を構えたエルは明らかに満身創痍だが、理性を失っているせいか、その戦意は衰えを見せない。 「神姫はあの程度で壊れるほどヤワじゃない。軽装の神姫とはいえ、一撃で沈めるのは不可能だな。しかし、コイツはあと弱パンチ一発といったところだが」 「パンチならワガハイの出番にゃ。見るにゃこの鍛え抜かれた肉球を。プニプニした感触から繰り出される百裂肉球はどんな神姫であろうと癒されるのにゃ」 「癒してどうする」 カグラがシャドーボクシングしながらエルの背後に回り、ホムラと挟み込んだ。 「行くにゃよネコ拳法――『にゃんぷしーろーる Ver.B!』」 「さっさと正気に戻れ――『パワフルメガマン!』」 ホムラは反対側から向かってくるカグラを巻き込むことにいささかの躊躇いもなかった。ウネウネとあまりにキモい動きで迫ってくるカグラが腹立たしかったのもあるが、カグラを気遣ったせいでエルまで仕留め損なっては挟み撃ちの意味が無い。 (神姫は頑丈だが……カグラなら少々壊れたくらいが丁度いいだろう) 柄を短く持つ手に力を込め、渾身の力で打ち出した。ハンマーの重量によりそれは破城槌となり、エルを目覚めさせる気付けの一撃となる。 「うおおおおおおおおおっ!」 「にゃにゃにゃにゃにゃっ!」 なる、はずだった。 「にゃぷぎゅっ!?」 カグラの豚を捻ったような声が聞こえるのと同時、ホムラの頬にプニッとした感触があった。カグラの肉球に殴られたのだ。 ハンマーを顔の中心にめり込ませているのは金髪の戦乙女ではなく、見慣れたケモテック製の猫だった。 エルは二人の間から姿を消していた。 「ワガハイ……こんな役ばっかり……にゃ(がくり)」 ホムラとカグラは長年一緒にいただけあって、息の合ったクロスカウンターは狂いなく互いに決まった。ホムラのハンマーはカグラを完璧に捉えて沈め、カグラの肉球はホムラを少しだけ癒したのだった。 ■キャラ紹介(8) コタマ 【ドールマスター爆誕】 「オイ、誰が3.5頭身の殺虫人形買って来いっつったよ」 十二体もの神姫を操るマシロを参考にして、コタマは自分では武装を身につけず、人形を操ることにしたのだ。 ただし、マシロのようにケンタウロスの胴体でデータ処理の容量を稼ぐことができないため、一度に操れる人形はコタマの両手でそれぞれ一体ずつが限度らしい。 その点については、「少数精鋭のほうがイイに決まってんだろ」とコタマに不満はないらしかった。 兄貴の武装神姫ストックに余りがなかっため、ベースとなる人形を近くのヨドマルカメラまで買いに走り、帰ってきたのがつい先程のこと。 ヨドマルに神姫を連れ込んではならないため、私が二体を適当に見繕ってきた。 でもコタマは私に感謝するどころか、箱に入ったホイホイさんを見るなり喧嘩腰で不満を垂れた。 「大学生にもなって読み書きもできねぇのか? どう見ても『武装神姫』じゃなくて『一撃殺虫!!ホイホイさん』って箱に書いてあるだろうが」 「だって、こっちのほうが可愛いやん」 「可愛いやん、じゃねぇよ! アタシの武装に可愛さとかいらねぇよ!」 「レラカムイからハーモニーグレイスに乗り換えて可愛げを無くしたんやから、せめて武器くらいは可愛くないといかんやろ」 「なんだその意味不明な理屈は! じゃあオマエはアレか、リクルートスーツがゴスロリドレスになっても文句言わねぇんだな?」 「やれやれ……コタマ、遊びとそうじゃないものの区別くらいつけんといかんよ」 「博多湾に沈めてやらぁ!!」 射場の順番待ちをしている間、コタマのことを背比に相談してみた。 背比は武装神姫を持っていないから、相談する相手を間違っているような気もするけど……相談ほど、話しかける口実に適したものはない。 背比は弓掛けをはめた手をニギニギしながら、たいして考えるでもなく答えた。 「そりゃあ、竹さんが悪い」 「なんでよ。だって武装神姫っていっても女の子なんよ。背比は知らんかもしらんけど、フリフリのドレスとか着た神姫もおるんやから。私のコタマだって傘姫が作った修道服着とるし。それやったら武器も可愛いほうがいいやん?」 「そうじゃないから、そのコタマと喧嘩したんだろ?」 そうだった。 またひとつ、背比に頭の悪いところを見せてしまった。 「ホイホイさん返品して、新しいの買い直したほうがいいんじゃないか? 竹さんだってその弓――」 背比が指さしたのは、私が高校の時から使っている『直心Ⅱ』だ。 手入れをあまりしなかったため、大きく歪んでしまっているが、今更ほかの弓を使う気にはなれない。 愛着以上に、この『直心Ⅱ』は弓の道を一緒に歩く相棒なのだ。 ……ああ、そういうことか。 「――を使うのを禁止されて、聞いたこともない弓を渡されたら、相手が範士の爺さんでもキレるだろ」 「うん、キレる。暴れる」 「俺だってキレる。武具ってのはそれくらい愛着がわきやすいものだぜ。だからさ、竹さんに考えがあったとしても、武装くらいはコタマの好きにさせてやろうぜ。ホイホイさん返品して、新しいの買ってやんなきゃな」 「あー……でも、買ってきたホイホイさん、もう兄貴が改造してしまったんよ。どうしよう、お金も無い」 「じゃあせめて、ホイホイさんの見た目とか性能くらいは好きにさせてやらないと」 背比からありがたく頂戴した提案は、今晩さっそく実行することにした。 クレイドルで不貞寝するシスターに、ホイホイさんの写真が載ったチラシとペンを渡した。 「んだよ、アタシは殺虫人形なんざ使わないからな」 「じゃあ、どうしたら使ってくれる?」 「ああ?」と私のことを睨みながらコタマは体を起こした。 その不満タラタラな顔にチラシとペンを突きつけた。 人形の買い直しがダメなら、せめてホイホイさんのデザインを、コタマの思い通りにさせる。 改造は兄貴にやってもらうとして、パーツが必要になれば、ホイホイさんを買ったお金の余りで補うし、それでもダメなら兄貴の持ってるパーツを貰うか、お父さんお母さんにお小遣いを前借りしてもらう。 この竹櫛鉄子、明日から日中の食事をチーズ蒸しパン一個で済ませる覚悟だ。 「いきなり素直になりやがったな。オイ、何を企んでやがる」 「なんも企んでないっての。ちょっと背比にアドバイス貰っただけ」 「またその背比かよ。オマエ、さっさと股開かねぇと他のアマに盗られるぜ」 「バカッ、そ、そんな下品なこと……でも、まだ傘姫とも付き合っとらんはずやし……もう少し仲良くなってからでも……」 葛藤する私を無視したコタマはチラシとペンを奪い取り、写真の中でポーズを取るホイホイさんにサラサラとペンを走らせ、デコレーションしていった。 「隆仁も言ってたけどよ、武装の有効距離を遠近どっちかに特化させちまったらつまんねぇだろ? バトルをジャンケンと勘違いしちゃいけねえ。遠くのカカシはブチ抜く、近くのネズミはブン殴る、ただそれだけだ。人間様と違ってアタシら神姫にはそれができる。唯一、人間様と同じデメリットの【身体は一人一つしかない】をアタシはクリアしちまったんだ。だったら話は簡単だぜ鉄子、コイツらの役割はもう決まったも同然だろ?」 好き勝手に書きすぎて、小学生の教科書の落書きのようになってしまったホイホイさんを、コタマはペンでコンコンと突いた。 一転して上機嫌になったコタマの笑みは、しばらく見ていないものだった。 「仮に名前でもつけとくか。近距離用の人形はファースト、遠距離用はセカンドな。ここからはオマエと隆仁の仕事だぜ。気合入れて、この設計図通りに仕上げてみせろよ」 次ページ『凶刃』 15cm程度の死闘トップへ
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Gene Less じ:ジーンと来る・・ワケねえよ! い:いいのかよ!? いいんだよ!! ツッコんだら負けだよ!!! ん:ん? とか深く考えてもしょーがないよ! れ:冷静になったら負けだよ! す:すいませんやりたい放題っす(爆) Gene Lessは、つまりは右脳で楽しむラジカル神姫オムニバスです♪ 注意?:お読みの際は用法要領を守ってるといいのかなぁ?(聞くな) 書いたの/うさぎなひと 目次 Gene1 解体屋 →→→Gene1おまけ Gene2 花屋 →→→Gene2おまけ Gene3 床屋 →→→Gene3おまけ Gene4 本屋 →→→Gene4おまけ Gene5 地上げ屋 →→→Gene5おまけ Gene6 靴屋 →→→Gene6おまけ Gene7 とうふ屋 →→→Gene7おまけ Gene8 ノミ屋 鳳凰杯とリンク →→→Gene8おまけ Gene9 餅屋 →→→Gene9おまけ Gene10 オケ屋 →サビ抜き版 →→→Gene10おまけ Gene11 テキ屋 →ようこそ黒葉学園へ!とリンクしてる気もする〈笑) →→→Gene11おまけ Gene12 服屋 →→→Gene12おまけ Gene13 お好み焼き屋 →→→Gene13おまけ Gene14 護り屋 →→→Gene14おまけ Gene15 殺し屋 →→→Gene15おまけ Gene16 浜茶屋 →→→Gene16おまけ Gene17 犬小屋 →→→Gene17おまけ Gene18 隣部屋 →→→Gene18おまけ Gene19 母屋 →→→Gene19おまけ Gene20 楽屋 →→→Gene20おまけ Gene21 特撮屋 →→→Gene21おまけ Gene22 田ミ屋 →→→Gene22おまけ Gene23 エチゴ屋 →→→Gene23おまけ Gene24 酒屋 →→→Gene24おまけ Gene25 風呂屋 →→→Gene25おまけ Gene26 当たり屋 →→→Gene26おまけ Gene27 たま屋 *えろいのかもしれぬ(え) →→→Gene27おまけ Gene28 鍛冶屋 →ホワイトファング・ハウリングソウルからあのヒトが! →→→Gene28おまけ Gene29 空き部屋 →→→Gene29おまけ 各所で小ネタに以下の作品の名前が使われております事をここでお詫びしておきます。 Mighty Magic、神姫狩人、ねここの飼い方、HOBBY LIFE,HOBBY SHOP、岡島士郎と愉快な神姫達、妄想神姫、戦うことを忘れた武装神姫、剣は紅い花の誇り、神姫ちゃんは何歳ですか? せつなの武装神姫 2036の風 橘明人とかしまし神姫たちの日常日記 神姫長屋の住人達。 ホワイトファング・ハウリングソウル Gene Less本編 G・L《Gender Less》 コメントがありましたらこちらに。アンコール、ネタリク等も受け付けております 名前 コメント お気に召した奴らの登場話に投票でもしてやってください 選択肢 投票 Gene1解体屋 (5) Gene2花屋 (0) Gene3床屋 (2) Gene4本屋 (1) Gene5地上げ屋 (0) Gene6靴屋 (0) Gene7とうふ屋 (1) Gene8ノミ屋 (3) Gene9餅屋 (3) Gene10オケ屋 (0) Gene11テキ屋 (0) Gene12服屋 (0) Gene13お好み焼き屋 (1) Gene14護り屋 (0) Gene15殺し屋 (0) Gene16浜茶屋 (0) Gene17犬小屋 (0) Gene18隣部屋 (2) Gene19母屋 (0) Gene20楽屋 (1) Gene21特撮屋 (0) Gene22田ミ屋 (1) Gene23エチゴ屋 (0) Gene24酒屋 (5) Gene25風呂屋 (2) Gene26当たり屋 (1) Gene27たま屋 (0) Gene28鍛冶屋 (3) Gene29空き部屋 (1) - -
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ウサギのナミダ ACT 1-6 □ 翌週末。 俺は気が進まないながらも、いつものゲームセンターへと足を運んだ。 井山とかいう変態野郎がいるかと思うと行く気がそがれるのだが、先週の騒ぎの後で行かないのでは、こちらに後ろ暗いことがあるように思われてしまう。 ティアの恐がりようを思うと、さらに気が引けるのだが、それでも俺はやはり、いつも通りに行くべきだと思ったのだ。 そんなことを考えていたら、いつも行く時間より、一時間ほど遅くなってしまった。 俺はティアを連れて、ゲームセンターへと向かった。 いつものように、店内に入り、武装神姫のコーナーに足を向ける。 ……気のせいだろうか。 ざわついていた店内の空気が変化したように思えた。 バトルロンドコーナー特有の喧噪がなりを潜め、いきなり空気が重くなったような感じだ。 よく見れば、コーナーの誰もがバトルに熱中している風ではない。 みんな、隠れるような視線で……俺を見ていた。 眉をひそめる あの井山みたいな奴が来たからといって、こんな風に迎えられるいわれはないはずだ。 だが、武装神姫のプレイヤーの誰もが、何かやっかいなものを見たような視線で俺を見ている。 俺がどうしようかと迷って立ち止まっていると、店の奥から長身の男が現れた。 大城だ。 「大城、これはどういう……」 「遠野、悪いことは言わないから、しばらくここに来るのはやめておけ」 大城は、らしくない難しい顔をしながら、そう言った。 俺が来たときに言う言葉を決めていたかのように、はっきりと言い切った。 「なんで」 短い一言が硬い口調であったのを自覚する。 食い下がった俺に、大城は黙って一冊の薄い雑誌を差し出した。 週刊のゴシップ写真誌だ。 下世話な芸能ニュースを中心に、サブカル的な内容も扱う、はっきり言って低俗な雑誌だった。 大城から受け取った雑誌は、神姫のオーナーの間では有名だった。 神姫の記事が毎週載っているためだ。 その内容は真面目なものではなく、神姫のグラビアとか、有名神姫のゴシップとか、そう言うたぐいのもの。 俺は興味がなかったので、ほとんど目を通したことはない。 俺はその雑誌をパラパラとめくる。 雑誌の真ん中あたりに、袋とじページがあり、開封されていた。 その扉ページには、『衝撃! 淫乱神姫の過激プレイ、その中身』という、まったくひねりも何もないタイトルが、奇妙な字体で書き殴られていた。 ページをめくる。 「あっ……!」 俺の胸ポケットで、ティアが絶句するのと、俺の脳内にハンマーが振り降ろされたのは同時だった。 そのグラビアに写っているのは、ティアだった。 いや、グラビアなんかじゃない。 グラビアだったら、少なくとも被写体の美しさを表現しようとする姿勢が見て取れるはずだ。 そんな姿勢は欠片もない。 あらゆる方法で汚される神姫を、より扇情的な構図で撮影した写真、だった。 なんで……ティアの過去は海藤くらいしか知らないはずなのに。 なんで、この記事で『T県、T駅前のゲームセンター常連神姫・T』なんて伏せ字で名指しされてる!? しかも、ティアの画像には、目隠しされていない。 ティアを知る人が見れば、間違いなくティアだとわかる。 「……なんだよ、これは……」 「それはこっちのせりふだ。なんなんだよ、これは」 大城が厳しい表情で俺を見た。 「まさかお前、ティアにこんなことさせてるんじゃないだろうな?」 「するわけないだろう!!」 返す答えが大きな声になってしまったのも、仕方ないことだと思う。 冗談でも、俺がティアを慰みものにしているなどと、言ってほしくはない。 「だろうなぁ。お前がそんなことするタマとは思ってねぇよ。 だがな、疑問はある。 この写真はティア以外には見えねぇ。そして、いつ、誰がこの写真を撮ったのか?」 「……奴か」 「だろうな。だが、それが本当だとすると、井山が言っていたティアの過去も本当だということになる」 ……妙なところで鋭い奴だ。 大城の言うことは全くの正論で、否定の言葉も見あたらない。 俺は拳を握りしめる。 「……たとえそうだったとして、今のティアと何の関係がある?」 「関係はないかもしれねぇ。だけど、気持ちじゃ納得できねぇよ。 言っちゃぁ悪いが……神姫風俗は違法だぜ? 犯罪に関わった……しかも、こんな姿を公開された神姫とバトルしたいと思うか?」 「だからそれは……!」 俺の反論を、大城は右手を挙げて制した。 「わかってる、お前は下心あるような奴じゃないってことはよ……。 でも、考えてみろ。今ここでお前が意地を通してバトルしようとしたって、誰も応じてくれやしない。 それどころか心ないヤジや噂話に、つらい思いをするのはお前達だぞ?」 そう、わかっていた。 今この状況で、俺が意地を張ってバトルをしようとしても、応じてくれる対戦者などいないことを。 それでも、俺は納得できなかった。 俺達は何か悪いことをしたか? ただバトルロンドをプレイしようとすることが、悪いことかよ? 俺と出会う前のティアは、確かに違法行為をしていたのかも知れない。でも今は、素体も標準的なものに換装されて、俺の神姫として登録されている。 それに、ティア自身が何か悪いことをしたか? ティアに違法行為をさせたのは神姫風俗の経営者で、法に触れると知りながら彼女を汚したのは、井山みたいな連中じゃないのかよ? 俺はぶつけようのない不満を握りつぶすように、強く強く拳を握る。 何とか無理矢理、自分を納得させようとする。 それでも頭が沸騰して、言葉にならない。 つかの間、俺と大城の間に沈黙が流れた。 それを破ったのは、別の方からかけられた声だった。 「ああ、ああ、遠野くん! 困るんだよねぇ、ああいう人を連れてこられちゃあさぁ!」 「店長……」 俺を見つけた店長は、あわてて側までやって来て、そんなことを言った。 店長は二十代半ばくらいだろうか。小柄で童顔なので、実際は学生のように見える。 人がよく、いつもにこにこと笑っている人だ。 それが、今は迷惑そうな顔で俺を睨んでいる。 「ああいう人って……井山みたいな奴のことですか」 「ちがうちがう! 黒い背広の、いかにもそっちの人って感じの連中だよ!」 店長の話では、午前中に一度、三人組のダークスーツ姿の男達が来店したという。 そして店長にこの雑誌を見せながら「この神姫がバトルしに来ていないか?」とほとんど脅迫めいた口調で尋ねたのだ。 店長は、知らぬ存ぜぬで切り抜けたらしい。 店長にしてみれば、やっかいごとを避けたい一心だったようだが、俺達にとってはありがたい話だった。 男達は、この神姫が来たら教えてほしいと言って、去っていった。 おそらくこの男達は、神姫風俗「LOVEマスィーン」の関係者だろう。 俺がティアを見つけたときに会った男達と特徴が同じだ。 「すみません。ご迷惑をおかけして……」 「ほんとだよ……君も常連さんだから、言いたくはないけど、しばらく店に顔を出さないでくれよ。 僕の方は何も知らないってことにしておくから」 店としては最大の譲歩なのだろう。 俺達のことを話さないでいてくれるだけでも、よしとせねばなるまい。 あんな手合いがやってきたのは、俺達にも責任があると思う。 店長はブツブツと文句を言いながらも、最後は俺の肩をたたいて、去っていった。 こうなってしまっては、店に迷惑がかかってしまう。 認めたくはないし、納得は行かないが、ここは立ち去るしかない。 俺は大城に手を挙げて、きびすを返した。 ふと気付いて、声をかける。 「そういえば、今日は久住さんは来てないのか?」 「……あの記事を見て、すぐに帰ったよ」 「そうか……」 少し胸が痛む。 ティアの過去は、むやみに人に話したリする種類のものではない。 だが、久住さんや大城にも黙っていたことは、俺にも責任があると思う。 特に久住さんは女性だから、何も知らずにこんな写真を見せられればショックだったろう。 「すまないな、大城」 「……」 大城はらしくもなく口ごもる。 わかっていた。 俺に「店に来るな」という嫌な役目を、大城が自分からかって出たことくらいは。 友達だから、相手にとって嫌なことでも遠慮なく言う。 それはそれで奴らしい。 そう考える俺の頭はようやくに冷えて、一抹の寂しさが心の中に積もりつつあった。 俺は大城に背を向け、ゲーセンの出入り口をくぐった。 結局のところ、納得などしていない。 ただ、現実を認識し、俺が一歩引いて、意地を通すのをやめただけだ。 帰り道も、家に着いてからも、俺は考え続けている。 風俗にいた神姫を保護して、自分の神姫として登録し、バトルロンドに参戦した。 武装はオリジナルだが、違法パーツは使っていない。公式戦にもエントリーはしていない。 近場のゲームセンターで草バトルを繰り返した。 それだけだ。 俺は誰もだましていたわけじゃない。 だけど、ティアの過去が、神姫風俗というものへの認識が、どのようなものなのか思い知らされた。 神姫のオーナーであれば、パートナーとして大事にしている神姫を、性のはけ口として弄ぶその行為自体、受け入れられないだろう。 (お互い同意のもとのスキンシップならば、また別なのかも知れないが、俺にはよくわからない) その気持ちはわかる。 だが、もはや風俗の神姫ではないにもかかわらず、なぜティアは受け入れられない? 武装神姫としてバトルにいそしんでいる姿は、誰もが知っていることだというのに。 ティアの過去がどうあれ、俺以外の誰に迷惑がかかるというのだろう? ……いや、ゲーセンの店長には迷惑かけているか。 確かに、あの黒服連中が店に出入りするようになったら、店長にしてみれば大きな痛手だ。 それを理由に店に来なくなる客もいるかもしれない。 その点については、申し訳ないと思う。 俺達のことを黙っていてくれるという店長には、むしろ感謝しなくてはいけないだろう。 だが、直接の原因は俺達か? ティアが、風俗にいたことが悪いというのか。 俺は、断じて違う、と言いたい。 神姫はオーナーを選べない。そしてオーナーの命令は絶対だ。 風俗にいる神姫は、どんなに嫌でも、違法であっても、身体を売る以外に為すすべがないのだ。 ティアはもう何度も何度も傷ついた。 もう十分だろう。俺のもとにいて、同じように傷つく必要なんてない。 それでも、ティアは受け入れてもらえないのか。 風俗にいた神姫というだけで、この先ずっと認めてもらえないのか。 そこまでいくと、もう社会的通念の問題で、俺個人の力ではどうしようもないことだ。 それはわかっている。 頭では理解できている。 納得できていないのは、俺の感情だ。 為す術のない自分の力不足に、不満であり、怒っている。 やっとたどり着いた、武装神姫オーナーとしての道を突然閉ざされたことに怒っている。 俺達が今までしてきたことを、誰もが手のひら返したように否定する態度が、納得行かない。 けれど、頭でどんなに考えたところで、結局俺一人の力なんてたかがしれており、何をしたところで、問題解決にはならない、という結論に達する。 堂々巡りだ。 俺は額に手を当て、ため息をつく。 以前、海藤が言っていた言葉を思い出す。 「どんなに君が否定しても、神姫風俗とのつながりを疑われるよ」 ああ、そうだな、海藤。君の言うとおりだ。 俺は今、自分の無力さに打ちのめされている。 こんなどうしようもない状況に誰がした? 俺じゃない。久住さんや大城でもない。ゲーセンに集まる常連さん達や、店長でもない。 誰だよ、俺達をこんな状況に追い込んだ奴は。 俺の視線が、不意に机の上の神姫をとらえた。 クレイドルの上で膝を抱え縮こまっている。 ゲーセンであんなことがあってから、一言もはなさず、落ち込んでいる。 俺の神姫。 ティアが、顔を上げた。 視線が交差する。 ……俺はどんな顔をしていただろうか。 ティアの愛らしい顔が、みるみる恐怖に塗りつぶされていく。 ……なぜだ? なぜそんな顔をする? 「ティア」 「ひっ……!」 俺の呼びかけに、ティアは頭を抱え、ますます縮こまる。 「ご、ごめんなさい、ごめんなさいごめんなさいごめんなさい……」 まるで、壊れてしまった音声メディアのように。 謝罪の言葉を繰り返し繰り返し唱え続ける。 俺は。 俺はバカか。 俺は一瞬でも、ティアが元凶だ、などと疑ってしまったのか。 今回のことで、一番傷ついたのはティアのはずだというのに。 「違う……お前が謝ることなんてない」 絞り出すようにかすれた声。 ちゃんとしゃべったはずなのに、その声色には悔しさが滲んでいる。 「ちがうんだ」 言い聞かせるようにつぶやく。 誰に? きっと、ティアと自分自身に。 マスターとして自分の神姫を守れなかったふがいない自分に腹が立つ。 ティアにこんな顔をさせてばかりな自分が悔しい。 俺は前に言った。 ティアに、普通の神姫でいてもいいと、教えてやりたい、と。 俺が望む以外に、ティアが俺の神姫になる資格があるのか、と。 ……何様のつもりだ。 俺は、こうして怯え、傷ついているティアに、何一つしてやれていないじゃないか!! それで、一瞬でも、俺をこうして苦しめているのはティアじゃないか、なんて考えて。 俺の方こそ、ティアのオーナーでいる資格がない。 やり場のない怒りを鎮めるため、両の拳をきつくきつく握りしめた。 次へ> トップページに戻る
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西暦2036年。 第三次世界大戦もなく、宇宙人の襲来もなかった、2006年現在からつながる当たり前の未来。 その世界ではロボットが日常的に存在し、様々な場面で活躍していた。 神姫、そしてそれは、全項15cmのフィギュアロボである。“心と感情”を持ち、最も人々の近くにいる存在。 多様な道具・機構を換装し、オーナーを補佐するパートナー。 その神姫に人々は思い思いの武器・装甲を装備させ、戦わせた。名誉のために、強さの証明のために、あるいはただ勝利のために。 オーナーに従い、武装し戦いに赴く彼女らを、人は『武装神姫』と呼ぶ。 ~プロローグ~ 其処は鶴畑家邸内に構えられた武装神姫専用棟。 この場所に置いて、あの鶴畑3兄妹の武装神姫たちが生まれ、訓練され、使役され、そして朽ち果て、棄てられていく。 そしてその施設の一つ、リアルバトル様式の実験場にて、新アラエルのテストが行われようとしている。 フィールド内、アラエルの周囲はヴァッフェバニーと新型のフォートフラッグが取り囲む様にして配置されており、 さらにはその周辺に渡って多数の武装神姫が配備されていた。 「ふふふ……いいかアラエル、貴様には最新の武装と最新型のシステムを組み込んである。 この程度の敵に敗北するようでは俺の武装神姫は名乗れん! その時は朽ち果てるだけ、だ」 施設の地下にある管制室から無数のモニターで状況を観察しているのは、鶴畑家の次男である鶴畑大紀。 大紀は前回マイティに敗れた旧アラエルを廃棄処分にし、修正プログラムを加えた上で、その戦闘データを新アラエルに移植したのだ。 更に鶴畑家で独自に開発中の制御プログラムを実験的に導入し、反応速度と処理速度の大幅な向上を図っている。 また各部の強度も向上させており、体当たりされただけで翼が空中分解という醜態を晒さないように工夫されている。 スペックデータだけであれば長男興紀の誇るルシフェルに匹敵し、それはこのテストによって実績となって証明されるはずであった。 「よし、開始しろ」 大紀の指示の元、オペレーター達が神姫に攻撃コマンドを命令していく。 アラエル周囲の神姫は全て中央から一括コントロールされており、いわば唯の人形と相違ない。 そして嵐のような一斉砲撃が始まった。 ヴァッフェバニーのSTR6ミニガンが、カロッテTMPが、フォートブラッグの主砲、ミサイルランチャー、他あらゆる火器が、アラエル唯一点を目指して突き進んでゆく。 そして着弾、爆発と煙でその姿は視認不可能。 たが次の瞬間、周囲を包囲していた最前列の神姫の頭が次々ボトボト地面へ堕ちてゆき、不本意な大地との接吻を余儀なくされる。 アラエルが指向性レーザーで首との接合部をひと薙ぎにしたのだ。しかもアラエル本体は無傷。 翼に無数に設置されたレーザー及び迎撃用ミサイルによる相殺で、完全にその攻撃を防ぎきったのだ。 今度は、格闘装備を展開した十数体の神姫が一斉に飛び掛る。 しかしアラエルは冷静に、危険度の大きい敵機からレーザーを浴びせ、確実に、そして圧倒的な速度で次々と沈黙させてゆく。 それはギロチンの処刑を彷彿とさせる様な光景だった。 レーザーがひと薙ぎする度に複数の神姫の首が胴体との別離を余儀なくされ、苦しみを訴える間もなく意識が奪われるのだ。 やがてフィールドには沈黙だけが残される。動いている神姫は既にアラエルのみであった。 「ふん……100体仕留めるのに3分26秒か、悪くはないな。よし上がれアラエル、データを元に再検討を行う」 しかしアラエルは動かない。 ただ佇むだけで、その目からは生気や意思が一切感じられない。まるで夢遊病者のようである。 いつもの様に従順に「イエス、マスター」との返答がくると信じきっていた大紀は不快感を露にし。 「おい、俺の言うことが聴けないのか! 初戦でいきなりぶっ壊れやがったのか!? この役立たずめ!!!」 罵倒を受けても、尚一切の反応を示さないアラエル。 と思われたその時、ギギギと錆付いたブリキのロボットのように再起動すると、全身に装備された全武装を最大出力で乱射し始めた! 「やめろアラエル! 廃棄処分にしちまうぞ、俺の言うことが聞けないのか!?」 そうマイク越しに叫んではみるものの、全く主人の意思に従うそぶりは皆無である。 最大出力のレーザーは施設そのものにも大きなダメージを与え、現場は凄惨なものとなっていた。 人間では危険すぎてとても近づけず、神姫によって拘束もしくは破壊しようとしてもその狂った戦闘能力は何者をも寄せ付けようとはしなかった。 破壊神と化し近づく者全てを、いや周囲のあらゆるものを灰塵に帰していく。 やがてその純白のボディにうっすらと内部から赤い色が染み出してくる。 過剰出力で発射し続けたためにオーバーヒートを起こしているのだ。 「やめろ! やめるんだ! やめてくれぇぇぇぇぇ!?」 エマージェンシーコールと共に、大紀の悲鳴が管制室に響き渡る。 ……やがて、限界を迎えたアラエルのジェネレーターは融解し、辺りは閃光に包まれた…… ~ねここの飼い方・劇場版~ ミィ~ンミィ~ンミィ~ン、とセミの鳴き声が暑苦しく聞こえる頃。 「あ~つ~ぃ~の~……」 「暑いですね……」 「暑すぎるわね……」 私たち3人はノびていました。夏休みに入ったばかりなのに、その日は運悪く点検による一斉停電の日でして。 そして更に運が悪いことに、地獄のような暑さだった……温度計をみると目眩がしそうな気温を指している。 という訳で私たちは居間に倒れこむようにしてぐったりと。 「ねここ~、雪乃ちゃぁん。お昼どうするぅ~……?」 べっちゃりと床に這い蹲る格好でそういう私、でも冷たいものしか食べたくないわ…… 「ねここ~ぉ~、カキ氷ぃ~……」 「いいわねぇ……でもウチには電動式のしかないのよ」 それを聞いて、へにょりとたれるねここ。私も同じ気分だけどねー……トホホ。 「あーもー……こうなったらエアコンの効いてるお店に逃げるしかないわね……ここからだと、エルゴが一番近いかしら」 老体に鞭打つようにして何とか立ち上がる私。 ここにいては死んでしまうと思えるほどなので、動きたくなくても動かなければ…… 「行くわよ~、さぁさ二人とも乗って。あ、団扇で私扇ぐの忘れないでよね」 「はぁひ…ぃ」 と、よろめく様な足取りでエルゴへ向かったのでした。 「生き返るぅ♪」 「サイコーなの~☆」 という訳で、あの蜃気楼のような街並みを死の行進の如く突破してエルゴにたどり着いた私たち。 自販機コーナーで命の一杯を満喫しているところです。 改めて店内を見回してみると、夏休みに入ったという以上に人が多い気がする。やっぱりみんな逃げてきたのかしらね。 「ねここ、せっかくだからバトルでもする?」 「う~ん、後でがいいの。今はまだヘロヘロぉ」 と、ぐんにょりしながら言う、ねここがここまで元気がないのは珍しい。 ま、私も今の頭だと指示出来なさそうだしね。 という訳で、スクリーンに映し出されている対戦に目をやる私たち。 戦っているのはストラーフとアーンヴァル。 どっちも常連のサードリーグの人なんだけども、私にはどちらも以前見た時よりもかなり動きが鋭くなってるように思える。 上達したのだろうけど、なんだろう…… 酷い言い方かもしれないけど、短期間に上手くなりすぎ……とでも言うのかな。 「……あぁ、そっか。運動パターンがどっちも一緒なんだ」 出荷時に神姫にプリセットされた戦闘用プログラムは基本的に同一だから、箱から出した時や経験値が殆どないときは 同じタイプであれば、どの娘もほぼ同じ動きをするわけで。 でもある程度成長してくると、同じタイプでも一人一人の個性が生まれて、全く違う動きをするようになる。 それは全ての神姫が自分の経験を元にして新しい動きを生み出すからであって、例えばねここと同じような動きをする神姫がいても、 ねここと全く一緒の動きをする娘はいない。 それにプリセットされた動きといっても、タイプ別のパターンはあるわけで。 なのにあの二人は、タイプも違うのに行動パターンが妙に似通っているんだ。 「や、美砂ちゃんこんにちは」 「あ、マスター」 私が観戦しながらそう思慮を巡らしていると、いつの間にかエルゴの店長が後ろにいて。 「難しそうな顔してたけど、あれ気づいたのかい?」 と、主語を省いて問いかけてくる。 「えぇ……同じ様な動きしますよね。あの二人って親友とかじゃありませんでしたよね?」 「ああ、そうだね。此処で顔をあわせる程度の関係だと思うよ。 ……まぁ、恐らくなんだけど、多分アレを使ってるんだろうな」 微妙な表情で、妙に言葉を濁す店長。 「アレ? 何かあるんですか」 ん、と店長は声を一段下げて 「多分だけどね、HOSを使ってるんだろうな」 「何ですかそれ?」 「ん、ハイパー・オペレーティング・システム、通称HOS。 まぁ一言で言うと武装神姫の動きや思考を戦闘用に最適化するためのものだね。 乗せるだけで平均30%は性能が上がるって言われてるよ。」 「へぇ、そんなものが出てたんですか。知りませんでした」 私はソフト面の改変は殆どしないし、やっても自分で処理してしまう事が多いので市販品については疎かったり。 「出てるんだよ、出したのは傘下のメーカーのほうだったと思うけどね。 今じゃかなりのユーザーが使ってるよ。手軽に能力UPが図れて、しかも激安ってね。 でも俺はあまり好かないな。確かに性能は大幅に上がるかもしれないけど、あれは神姫の個性を殺すようなシロモノだからね。 確かに強くはなれるかもしれない。でもそんなものに頼った強さは本物の強さじゃない。本物の強さというのは……」 と、そこまで話して店長はハっとなって 「いや、すまなかったな、こんな話お客さんに聞かせるモンじゃないよな。忘れてくれれば有難いよ」 「いえお構いなく。でもそうですね、ジュース1本づつ奢ってくれたら忘れてあげます☆」 「ハハハ、まぁいいさ。それくらいならね、何がいい?」 「それじゃあですね~……」 そうおちゃらけてみたけど、その話をしている時の店長さんの顔がとても真剣で、とても怖くて、そして悲しそうに見えたのが印象的でした。 「さて、やっと落ち着いてきたし。一試合やっちゃいましょうか~」 「お~っ☆」 店長さんから2杯目のジュースを強奪した私たちは、フル回復。 ねここも雪乃ちゃんも戦闘用装備に換装して準備万端だ。 「さてさて、誰がお相手になるのかしらね~」 とその時 「キャァァァァァァァァァァァ!!!」 いきなり対戦ブースの方から聞こえてくる絹を引き裂くような悲鳴。 振り向くと、そこのスクリーンには相手がダウンしてるにも関わらず、延々と相手の顔面を殴り続けるアーンヴァルの姿が。 相手のストラーフの顔はフレームから歪んでしまっている。バーチャルとはいえやり過ぎなのは明らかで。 私は何かトラブルがあって、感情が振り切れて(つまり激怒して)しまったのかと思ったけど、アレは違う。 顔は無表情、あらゆる感情が消え去りただマシーンのように相手の顔面を殴るのみ。 マシンに駆けつけた店長が、急いでマシンを停止させようと機器を操作する。 「……くそっ! 試合が終わらない、なんでだっ!?」 だがマシンは止まらない、店内が段々騒然としてくる。 それ以前に、あんな状態になる前にジャッジAIが判定を下しているはずなのに。 「電源を抜いたら?」 私も傍らに駆けつけて、そう言ってはみるものの。 「ダメだ、今下手に電源を抜いたら、電脳空間内にいる二人のデータが破損する恐れがある。 ……!? いつの間にか識別信号が味方同士になってる。だから終わらないのか!」 「変更できますか?」 「いや無理みたいだ、二人のデータから何か流れてきてるみたいでな。……電脳空間に乗り込んでって、二人を直接倒せばあるいは……」 「ねここが、行くよ」 え?、と驚く店長。 「あんなの見ていたくないもん。ねここにできる事があったら、やるのっ」 「私も行きます。ねここだけを危険な目にあわせる訳には、行きません」 雪乃ちゃんもそれに続く。 私は何も言わない、ただ微笑んで二人を送り出してあげるだけ。 店長さんは一瞬何か言いたげだったが、すぐに気を取り直すと 「わかった、二人にお願いする。でも俺の方もジェニーをすぐ送り出すようにするから、二人は無茶しない事、いいね」 と、二人に任せてくれた。 「それじゃ、隣の筐体に入って。すぐに繋げるから」 「……何か空気が違う感じがしますね、ねここ」 「うん、嫌な感じがするの」 そして二人はそのフィールド、ゴーストタウンへと降り立っていた。私もヘッドギアを付けて、二人のサポートと援護。 『二人とも、目標は前方500にいると思われるわ。出来るだけ早く叩いて頂戴……それと、辛いけど頭部を破壊して。 100%確実に退場させるにはそれしかないの。悪いけど……』 さすがにこんな言葉を二人に伝えなければいけない自分が嫌になる。しかも手を汚すのは私じゃない、あの娘たちなのに…… 「……心配しないで、みさにゃん。ねここは大丈夫……それに、そうすればあの子たちを助けられるんだから…っ」 『………お願い、ねここ』 ……強くなったね、本当に。 「……ねここ、向かってきます。二人とも!」 と、雪乃ちゃんが言うが早いか、レーザーライフルの連射が二人を襲う。サードリーガー、まして暴走中とは思えない正確な射撃だ。 「とぉっ!」 だけどねここ達には当たらない。二人は壁や十字路の死角を駆使して、器用に攻撃を回避しつつ接近していく。 と、壁にドォン!と着弾。壁が粉々に吹き飛びビルが半壊する。 「ふぅ、セーフぅ」 壁伝いに移動するねここに、ストラーフがグレネードを放ったのだ。 頭部に大きなダメージを負っているはずなのだが、動きは通常時と変わりなく、それが不気味さを増大させている。 「ねここはアーンヴァルのほうを! ストラーフは私が引き受けます」 「了解っ!」 言うが早いかシューティングスターを全開にして一気に突進するねここ。 ストラーフはそのねここに対して攻撃を行おうと 「させませんっ!」 雪乃ちゃんが左腕に装備したガトリングガンでストラーフを蜂の巣に。サブアームでガードするものの、全身に満遍なく被弾。 さらにグレネードランチャーにも弾着、爆発。その爆風を全身に浴びてしまうストラーフ。 既に装甲はメチャクチャに撥ね上がり、既に装甲としての役割を果たさなくなっている。 見た限り駆動系の一部も破損しているはずだ。 普通ならとっくに動けなくなっているはずなのに、しかしまだ動く。 その不死身さはゾンビを連想させる…… 「……止むを得ませんね」 姿勢を低くして一気にダッシュをかける雪乃。 ストラーフは突進してくる雪乃をメッタ斬りにしようと、自身の腕とサブアームでアングルブレードとフルストゥ・グフロートゥを構え、 タイミングを計って一気に振り下ろす! が、雪乃は直前に横に細かくステップ。 そのまま相手の頭上へジャンプし、ストラーフの脳天、ほぼゼロ距離から蓬莱壱式を叩き込む! それは頭部に直撃、完全破壊。さらに胴体にも致命傷を受けたストラーフはそのまま倒れこみ、やがて消滅していった。 一方ねここはアーンヴァルに向けて突撃。 「このくらいじゃ、当たらないよっ!」 確かに相手の射撃は正確だけども、十兵衛ちゃんに比べれば隙だらけ。 ねここは紙一重で回避し続け、あっという間に白兵レンジへと持ち込んでしまった。 と、不利と悟ったのか空中へ飛翔しようとアーンヴァル。 でもそうは問屋が卸さない。 『ねここ、一気に決めちゃってっ!』 「了解なのっ。いっくよー!」 ジャンプと同時にシューティングスターを吹かす! と、一気にアーンヴァルの目の前に出現する。 シューティングスターは空中での機動性こそ殆どオミットしてあるけれど、その推力に任せてある程度飛ぶことは出来るのだ。 「とりゃーっ!」 ねここはワイヤークローを射出、そのワイヤーでアーンヴァルをがんがらじめにして地上に落下させる! 「ごめんね……っ」 体制を立て直そうと立ち上がったアーンヴァルに対し、ねここが迫る。 その左手にはドリルが装備されていて……一気に高速回転、唸りをあげる! 「ドリルクラッシャー!!!」 ……次の瞬間、ドリルはアーヴァルの頭を完全に粉砕していた…… やがてキラキラとポリゴン粒子になり消えていくアーンヴァル、どうやら成功したみたいだ。 『ねここ、雪乃ちゃん。変な影響が出る前に二人とも戻ってね』 「はぁいなの」 「了解」 「……ぅ、ぅぅん。あれ、ますたぁ?」 「よかったぁ…っ、なんともないのね!?」 「ぅん、平気かな……ボクどうしちゃったんだろぅ」 目を覚ました神姫と、その神姫を抱き上げて喜ぶマスター。 無事に再起動した二人を見て、ほっと胸を撫で下ろす私達。二人の意識は無事元のボディに戻ったみたい。 ただ原因は不明。店長さん曰くウィルスの存在もあるけど、現時点では確認されていないとの事。 店長さんからは当事者たちには、二人の神姫は当分の間バトルは止めた方がいいという事を言っていました。 で、ねここ達も念のためチェックをした後帰宅、ということに。 「今日はすまなかったね、迷惑ばかりかけてしまって」 「いえ、気にしないでください。ねここたちが選んで決めたことですから」 と会話している私達。 この時はまだ、漠然とした不安を抱えながらも、あれ程の事件に発展するとは夢にも思っていなかったのです…… 続く 戻る
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はじめて触れた武装神姫のゲームは何ですか?(古株さん新規さん割合調査) 立体の武装神姫を持っていますか? コラボ先のゲームを遊んだことがありますか? コメント アンケートを取りたいものがあれば追加して下さい。 はじめて触れた武装神姫のゲームは何ですか?(古株さん新規さん割合調査) 選択肢 投票数 投票 バトルロンド 39 バトルマスターズ 38 バトルマスターズMk.2 49 バトルコミュニケーション 1 バトルコンダクター 91 立体の武装神姫を持っていますか? 選択肢 投票数 投票 MMS神姫だけ 45 メガミ神姫だけ 5 両方持ってる 46 MMS神姫(バトコンきっかけ) 15 メガミ神姫(バトコンきっかけ) 2 持ってない 56 その他(固定フィギュア、ガレージキット) 6 コラボ先のゲームを遊んだことがありますか? 選択肢 投票数 投票 ときめきメモリアル(初代) 2 ラブプラス 2 クイズマジックアカデミー 3 beatmaniaIIDX 3 スティールクロニクル 6 オトカドール 1 SOUND VOLTEX 2 コメント 古株さん60% 新規さん40% てな割合みたいね。まぁ大雑把に見れば半々。 -- 名無しさん (2021-02-22 22 25 45) 「初めて触れた武装神姫のゲーム」で、バトコンきっかけで他のゲームが初めてって事はないはずですよね?って思って削除しました。0票だったしいいよね? -- 名無しさん (2021-03-04 21 39 49) (バトコンきっかけ)の人、おいくらかかったんだろうか・・・ -- 名無しさん (2021-09-24 21 27 32) バトコンとコラボしているゲームのタイトルが増えてきましたので、それらがどれだけ遊ばれている(いた)のか興味がわいて、アンケート項目を新設しました。なおパチはジャンル外ですので除外しました(ごめんねスカイガールズ) -- 名無しさん (2023-06-16 22 30 13) 名前 コメント
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● 三毛猫観察日記 ● ◆ 第一話 「猫、飼いました」 ◆ 「よぉ虎太郎、約束の物を持ってきたぜ」 大学の学食で雑誌を読んでいると、アキオが話しかけてきた。 「おひさし。変なものを頼んで悪かったな。見つけるの大変だったろう?」 「いやいや、お前にはウチのサンタ子の神姫パーツでいつも世話になってるからな。 これくらい何でもないさ」 そう言いながらアキオは、ショルダーバッグから30センチぐらいの箱を取り出し、 テーブルの上に置いた。 「コイツがその神姫だ。注文通りCSチップに性格情報がインプットされてないのだぜ」 箱の中身は、犬型神姫ハウリンの素体だった。 俺の名は高槻虎太郎。去年大学に合格して上京、安アパートで一人暮らしをしている。 実家は車・家電・その他もろもろの修理工場。つまり「何でも修理屋」だ。ガキの頃から 工場を手伝っていた俺は機械いじりが得意で、稀に神姫の調整なんかもやっている。 目の前にいるのは徳田アキオ。俺と同じ大学の2年で大企業の御曹司。共に神姫同好会 (まだ三人だけ)の会員だ。入学当時の「ある事件」で知り合い、俺は神姫が嫌いなのに 強引に入会させられ…まぁこの話は別の機会にでも。 「しかし虎太郎が自分で神姫を育ててみたいって言った時は、正直、耳を疑ったぜ?」 「なんだよ、お前の影響なんだぜ?まぁ食わず嫌いのままってのもアレだしな」 「それにしても性格のインプットからやりたいなんて、エラい極端なヤツだな」 「どうせならトコトンな。上手くすれば心理学ゼミの発表に使えるかもしれないし」 これから俺がやろうとしてるのは「ネット情報が人の育成に与える影響」の実践。つまり 性格設定がされてない神姫をネットに直結し、その情報の中で偶発的に性格のインプットを 行おうというものだ。無論、ただ直結しただけでは情報を処理しきれないので、人間の 精神成長の過程を模して、それぞれの各段階ごとに対応した情報フィルターを掛ける。 その為のプログラムはもう用意してある。 「後はこの神姫にPC接続用のニードルコネクタを取り付けるだけなんだ。クレードルじゃ 転送速度とか間に合わないからね。手首から飛び出すようにするつもりだから、手間は そんなに掛からないと思う」 「それじゃ予定通りに、半月後にはこの子の勇士が見れそうだな。小暮にも言っとくよ」 小暮君というのは、今年同好会に入ったもう一人の会員だ。 「ああ、二人で期待して待っててくれ!」 ○6月1日(金) ハウリンへのニードルコネクタ取り付けも終わり、いよいよ実験開始の日を迎えた。 部屋の隅のちゃぶ台にクレードルを置き、神姫をセットする。PCから伸びたケーブルを 手首から飛び出ているニードルに接続した。PCは既に起動している。 「頑張ってくれよ…よし、プログラム・スタート!!」 ○6月3日(日) プログラムは順調に作動中。計算では今頃3歳ぐらいの精神構成を行っている筈。 あ、七五三とかひな人形とかの用意をするべきだろうか? ○6月7日(水) もう7歳ぐらい。俺はこの年ぐらいから親父に工場の手伝いをやらされ始めたんだ。 安心しろ我が娘、お前にはそんな苦労はさせないからな(涙 ○6月15日(金) 予定通り、12歳のところまで来た。明日はいよいよ本起動の日。アキオがサンタ子を 連れて見に来る予定。あ、そういえば名前を考えていなかった…アキオの神姫、サンタ型 「サンタ子」みたいに「犬子」って名前にするのもねぇ…明日までに考えておくか。 「リューネさん、って言うんですか…早くお話をしたいですねっ!」 アキオの神姫「サンタ子(本名)」が、クレードルに横たわっているリューネの顔を ニコニコしながら覘いている。 「サンタ子の周りの神姫って、小暮の砲台型「小春」だけだったからな。 友達が増えるから嬉しいんだろう」 「ええ、アキオさん!」得意のメイドさんスマイルでニッコリ。 「そう言えば小暮君、今日は定期検査の日だって?」 「あぁ、ホントに大変だよな…来られなくて残念がってたよ」 「そっか…」 今年入学した小暮君はIQが高い天才児。だが産まれつき体が弱く、小さい頃から入退院を 繰り返してあまり学校に行けなかった。そんな感じだから友達も居なかったらしい。だから 同好会で出合った砲台型神姫の小春は、彼にとって大切な友達となったんだ。 「まぁ月曜日に学食で顔合わせをしよう。しかし、早くサークルに昇格して部室を 貰わないとなぁ。いつまでも学食が部室代わりってのは寂しいな」 「最低条件の三人は確保したんだから後は実績か。自治会の出した昇格の条件って、 同好会のメンバーがセカンドリーグ入りすることだったよな?」 「まかせとけ!このままなら年内にはサンタ子はセカンドだぜ!」 いつの間にかアキオの傍に来ていたサンタ子が誇らしげに胸を張っている。 実際サンタ子は強い。悪魔型だけは苦手だが、それでも勝率は7割を超えている。 セカンド昇格は時間の問題だろう。 「よし…それじゃ本起動するぜ!」 「おお~遂にヤルか!」「すっごい楽しみです!」 PCのキーボードを押す指が少し震える。さて、どんな子に育っているかな… 内気な子?ヤンチャな子?怠け者?乱暴者だけはイヤだな… さぁ、起き上がるんだ! 横たわっていたリューネが小さく震えた。そしてゆっくりと上体を起こす。 周りを見回して俺を見つけると、頼りない足取りで近づいてきた。そして目の前で 立ち止まり、涙目でこう言ったんだ。 「コタロー、ずっと逢いたかったの………アタシよ、三毛猫のミアだよ!!」 アキオとサンタ子には帰ってもらった。 とりあえず大きく深呼吸。そして自称ミアを名乗るハウリンを見る。 ちゃぶ台の上で俺を見つめているその仕草は、本当に「ミア」そっくりだ。 「ミア」というのは昔飼っていた三毛猫の名前だ。…中学の頃に死んでしまったが。 PCを操作して昔の日記データを引っ張り出す。 『ミアの観察日記』。そこには楽しかったミアとの思い出が詰まっていた。 ミアの写真。ミアの動画。ミアの成長記録。そして…ミアの遺影。 どうやらこの神姫はこのデータを読み取ってしまったおかげで、自分のことをミアの 生まれ変わりと思ってしまったらしい。 「あ、これアタシの昔の写真ね!」いつのまにか隣にミアが居た。 そして俺の背中をよじ登り、首にしがみつく。ミアの悪い癖だ。 …勿論コイツはミアじゃない。このデータをコピーしただけだ。それは解っている… 「痛いから止めろって、昔から言ってるだろ!」首を掴んで引っぺがし、PCの隣りに置く。 「調べ事してるんだから大人しくしてなさい!」 「は~い」不機嫌そうに丸まってしまった。 日記を読んでみる。 小学校の帰り道にミアを拾った事。 ミアが猫風邪をひいてしまい、心配で学校をサボった事。 発情期でうるさくて眠れなかった事。 ミアと一緒に家出をした事。 クラブ活動から帰ってくると、ミアが車に轢かれて死んでいた事。 最後のページには(完全に忘れていたが)こんな事を書いていた。 「ミアは天国にいきました。でも人間に生まれ変わって、そして僕と結婚するんだ」 目玉がでんぐり返る気がした。そしてミアが一言。 「早く人間になってコタローと結婚したいなぁ~!」 部室代わりの学食に集まる俺たち同好会の三人。 その隣のテーブルの上では、ミアとサンタ子と小春が仲良くおしゃべりをしている。 どうやら三人とも仲良しになったらしい。 「それじゃ先輩は、ミアちゃんを今まで通りの方法で育てていくんですか?」と小暮君。 「ああ、これはこれで実験結果の一つには違いないし、最終結果はまだ出てないからね」 「実験対象、ですか…」ちょっと不満そうに呟く。 「まぁまぁ、神姫の育て方なんて人それぞれだし、大切にさえすればいいんじゃね?」 「それはそうですけど…」アキオの言葉にも納得してないようだ。 「大丈夫だよ、だってコタローはミアちゃんのこと愛してるんだもん。ね~コタロー!」 急にミアが周りに聞こえるぐらいの大声で言った。(ヤメテクレ) そして俺の方に寄ってきて、腕にほっぺたをスリスリしてくる。(ダカラヤメテクレ) 「あはっ、ミアちゃんカワイイですねぇ~、でもハウリンってよりはマオチャオみたい!」 機嫌を直した小暮君が、優しい目でミアを見つめる。 「自分の事を完全に猫だって思い込んでいるからねぇ」 「これは仮の体だから何でもいいのぉ。将来人間になってコタローと結婚するんだから」 (みんなの前で言うなぁ~~~~~~~~~!!!!) ○6月21日(木) コンビニから帰って、とりあえずミアを胸ポケットからクレードルに移す。 するとミアは自分からニードルコネクタを接続し、ネットにダイブした。最近はネット 空間で1時間ぐらい遊ぶのが日課になっている。 もう性格の設定は終わったから、フィルタープログラムとかは起動していない。 さすがに変なHPとかはブロックするようにしてるが、基本的には本人まかせだ。 良く言えば放任主義ってところか。 ○6月24日(日) 今日は小暮君と、アキオの高級マンションにお邪魔した。8月に行われる公式大会の 打ち合わせに来たのだ。と言っても大会に参加するのはアキオのサンタ子だけなのだが。 隣の部屋では、豪華な神姫用ドールハウスの中でミア達三人がお茶会ゴッコをしている。 後でミアに同じ物をねだられそうで怖い。 とりあえずサンタ子の調整も兼ねて、みんなで7月下旬に行われる三人一組の小さい 非公式大会に出ることになった。実はミアを戦わせることなんて全く考えていなかったが、 ミア本人がノリ気なのでやらせてみることにする。 ○6月30日(土) ミアが昨日の夜からダイブしっぱなしだ。心配になったので強制的に接続を切る。 何をしてたのか聞いてみると、ネットで碁の対戦をやっていたそうだ。 何でも頭を使う対戦ゲームにハマっていて、昨日は将棋をやっていたとのこと。 対戦結果を見て驚いた。殆ど全勝じゃないか…コイツひょっとして天才なのか? ○7月2日(月) 今日はネットで戦略ゲームをやっていた。これも殆ど全勝。やっぱ天才かも。 でもオマエ、ゲームのやり過ぎだ!「ゲームは一日一時間」を言い渡す。 ○7月5日(木) ミアがウィルスに感染してしまった。(セキュリティソフトは入れてあったのに) 言語関係のデータがやられた。かなり強力なヤツらしい。とりあえず機能停止させる。 ○7月7日(土) アキオの教えてくれた業者にミアを連れていって、とりあえずウィルスは駆除できた。 同じことが起こらないように、ミアにウィルスやハッキングの情報を十分に与えてみた。 あとは自分で学んでいくだろう。…これが元で自分がハッカーになったりして(笑 ○7月10日(火) このバカ、本当にやりやがった。(※添付ファイル:「WhiteHouseHP.jpg」) 一週間のダイブ禁止令を出す。少し頭を冷やしなさい! ○7月13日(金) 試験も終わり夏休みになったので、そろそろミアの武装に本腰で取り組むことにした。 アキオが用意してくれたのは素体だけだったので、今までミアは武装をしたことが無い。 俺はハウリン装備を改造するつもりで図面まで引いていたのだが、本人はどうしても マオチャオ装備が良いといって聞かない。仕方が無いので神姫ショップで猫装備を購入、 図面も引きなおすことにした。 ○7月21日(土) 明日は大学の近所にある商店街で「三人一組神姫大会」が行われる。リアルバトルだが ペイント弾・ウレタン武器を使った模擬戦なので、そんなに危険なことは無いはず。 サンタ子と小春は準備万全だが、ミアは装備完成の遅れもあってマオチャオ装備での 訓練時間が少ない。ちょっと不安だ。当日は3対3の団体戦、ミアが足手まといに ならなければいいが。 第二話 激闘!あおぞら商店街! へ進む 三毛猫観察日記 トップページへ戻る
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ウサギのナミダ ACT 1-10 □ 今の状況に置いて、俺に打つべき手はなかった。 噂の否定と拡大阻止などは、一介の大学生には手に余る代物だ。 何かヒントになることはないかと、一度ネットの掲示板なども覗いてみたが、すぐにやめた。 ゲーセンの連中よりも面白半分な書き込みが大半を占めていて、当事者の俺はとても読む気にはならなかった。 もし俺がネット上で否定的な発言をしても、すぐにログは流れてしまうだろうし、「本人降臨」とか言われて、火に油を注いで面白がらせるだけだろう。 ネットだけではなく、ペーパーメディアの情報も入れるのをやめた。 隔週刊誌の「バトルロンド・ダイジェスト」は毎号楽しみに購読していたが、それすらも手に取るのをやめた。 その雑誌には、様々な武装神姫達が誌面を彩っているが、そんな神姫達が妬ましく思えてしまう。 その近くには、例のゴシップ誌が置いてある。 バトロンダイジェストに掲載されている、きらめくばかりの神姫達と、俺達をどん底の状況にたたき落とした雑誌に掲載されているティア。 お前達の現実はこれだ、と、コンビニの雑誌棚にさえ責められているような気がする。 俺はおとなしく大学に通い、上の空で講義を聴き、家に帰っては課題を適当にこなし、時々ティアの様子を見る、という生活を淡々と続けた。 ティアはひどいスランプに陥っていた。 原因は明らかだったが、俺はあえて何も言わないことにしていた。 と言うよりも、かけてやる言葉の持ち合わせがなかったのだ。 いつ復帰できるかわからない、復帰の可能性すら絶たれている今、ティアに訓練をさせる理由がない。 虎実との約束は確かにあるが、それだっていつのことか決まっているわけではないのだ。 だから、ティアには好きにさせていた。 ティアは訓練をやめようとはしなかった。まるで何かに憑かれたように。 課題の消化は遅々として進まなかったが、それでも叱ったりすることはなかった。 俺のモチベーションの方が、もう折れそうだった。 そんな風に過ごしていた木曜日、携帯電話が鳴った。 海藤からだった。 「ネットで、君たちの状況を知ったよ。きっと落ち込んでいると思って」 古い友人はそうのたまった。 ああそうさ、海藤、君の言うとおりになったよ。 俺達はただいま絶賛嘲られ中の身の上さ。 「それで、きっと、ネットもチェックしてないだろうと思ってさ……。 君たちの身の上の問題とは別件で、相談したいことがあるんだ」 なんだそれは? 海藤はよくわからない、もって回った言い方をしている。 俺は意味を尋ねたが、 「ああ、映像を見てもらった方が早いから……土曜日、うちに来ないか? 気分転換も兼ねて、さ。ティアを連れてきてもいいし」 と言った。 そんな気になる言い方をされては、行かざるを得ないではないか。 どちらにせよ、ゲームセンターに行くことも出来ないし、週末はまったく予定が空いている。 土曜日に訪問する約束をして、電話を切った。 ■ マスターが海藤さんと約束している土曜日は、瞬く間にやってきた。 「一緒に行くか?」 判断をわたしに委ねてくれたマスターに、しかしわたしは、断った。 「あの……やっぱり、練習します……」 「そうか……」 その一言だけで、マスターは出かけてしまった。 最近、マスターはわたしに命令することをしない。叱ることも、もちろん笑うこともしない。 もう、何もかもを諦めてしまったかのように、わたしには感じられた。 スランプから未だに脱出できないわたしが原因であることは間違いない。 だからつらかった。 もう、わたしに愛想を尽かしているだろうマスターと一緒にいるのがつらかった。 そして、あろうことか、わたしはマスターに嘘をついた。 一人家に残ったのは、練習の為じゃなくて。 確認したいことがあったから。 電源をつけっぱなしの、マスターのデスクトップPC。 神姫のわたしには大きすぎる、そのキーボードとマウスに歩み寄った。 □ 前回、海藤の家に来たのは、ティアのボディを交換してもらうためだった。 あれからすでに四ヶ月ほども経っている。 その間、俺は夢中でティアと向き合っていたのだ。 急に、左の胸ポケットのあたりが軽く感じられた。 いつもそこにあった、いつもちょっと不安そうな表情は、今日はない。 久しぶりの道を一人歩く。 手にしたドーナッツの箱はお約束だ。 「よく来たね。さあ、入って入って」 旧友はいつものように俺を迎え入れてくれた。 変わらない態度が、今の俺の心に染みた。 「……その手、どうしたんだい?」 俺の右手にはまだ包帯が巻かれている。 まあ、普通気になるよな。 俺は曖昧に笑っていった。 「ああ……ちょっとドジってさ。階段で転んだ」 「ふぅん?」 海藤はそれだけ言って、深く追求しなかった。 「いらっしゃいませ」 鈴の鳴るような声で、海藤の肩から挨拶してきたのはアクア。 彼女も変わらない。 だけど、彼女は不意に気遣わしげな表情になり、 「あの……ティアは?」 俺に尋ねてくる。 二人は変わらない。 この四ヶ月の間に、俺の方にいろいろありすぎたのだ。 「ティアは……一人で自主練」 自分の言葉に、急に寂しくなる。 やっぱり、無理にでも連れてくればよかった。 アクアは少し眉根を寄せて、気遣わしげに俺を見つめている。 俺は安心させるように笑おうとしたが、うまくいかなかった。 海藤は何も言わなかった。 海藤の家の広いリビング。 壁を水槽に占領された反対側の壁に、大型の薄型テレビがかかっている。 海藤はリモコンを手に取り、電源を入れ、目的の映像ファイルを指定した。 「早速だけど、これを見て」 俺達がソファに腰を落ち着けるのももどかしく、海藤は映像をスタートさせた。 何気ない行動であるが、普段の海藤からすると、そうとうせっかちだ。 コーヒーを淹れないどころか、ドーナッツの箱を開こうともしないなんて。 それよりも、今は映像だ。 そんなに急いで見せたい映像とは何なのだろうか。 大型のディスプレイに映像が映し出された。 深い、青。 果てしない蒼穹。 細く、白い雲がたなびいている。 突如、高速で現れた二つの影が、その糸のような雲を切り裂き、翔けていく。 アーンヴァル。 白と黒、二機の武装神姫が、自らもジェット雲を細く引きながら、舞っていた。 ■ わたしは、マスター愛用のキーボードとマウスを操作しながら、ネットを徘徊した。 本来、神姫がPCを操作するには、身体を載せてアクセスするアクセスポッドを使用する。 クレイドルには、アクセスポッドの機能が付加されているものもあるけれど、わたしのクレイドルはごく普通の、最小限の機能しか付いていない。 仕方がないので、こうして巨大な入力デバイスと格闘しているわけなのだ。 なぜネットを調べようと思い至ったのかと言えば、わたしが、いまわたしとマスターを取り巻く状況を何も知らないからだった。 マスターは何も言ってくれない。 だけど、マスターがつらい顔を見せたり、怪我をしたりするのは、外で何かが起こっているに違いない。 ……きっと、わたしの過去のことで。 それを知って、わたしに何が出来るわけではないけれど。 それでもわたしは知りたかった。知らなければならなかった。 懸命にキーボードと格闘し、ようやく武装神姫の話題が豊富な大型掲示板にたどりつく。 武装神姫だけでも、数多くの話題をあつかっているみたいだ。 スレッドと呼ばれる個々の話題の掲示板が、その名称だけでディスプレイの画面が埋め尽くされていた。 わたしはちょっと途方に暮れた。 この無数とも思われる掲示板の中から、自分の知りたい話題のものを探せるだろうか。 だけど、わたしの心配は杞憂だった。 そのスレッドは、リストの一番初めの方にあったのだ。 『袋とじ風俗神姫のスレ 137ページ目』 ……明らかに、あの雑誌の、わたしの写真のことを指しているタイトルだ。 胸が苦しくなる。不安になる。 ここにはきっと、わたしたちのことを知らない人達が、あの記事をどう思っているか、が書きつづられているはずだ。 わたしは意を決し、マウスカーソルをずるずるとスレッドタイトルに移動すると、マウスをクリックした。 □ ステージは超高高度の空中。 繰り広げられているのは超音速のドッグファイトだ。 二機のアーンヴァルは、いずれもカスタマイズされている。 黒の方はトランシェ2のリペイントバージョンがベース。 近・中距離戦を得意とするトランシェ2を基本装備としながらも、デフォルト装備とは異なるロングレーザーライフルも装備し、いかにもアーンヴァルらしいカスタム。 一方、白い方は、こちらもトランシェ2ベースに見えるが、様々なパーツを使用したカスタム機のようだ。ノーマルのアーンヴァルとは異なる、長い銀髪が印象的。 錫杖のような武器を持つきりで、装備は相手に比べて軽量に見える。 この白いアーンヴァルはどこかで見覚えがあった。 「セカンドリーグ全国大会、東東京地区の決勝戦だ」 海藤の言葉に、俺は思わず喉を鳴らした。 参加する神姫の多い東京は常に激戦だ。 東東京地区は、都心から東よりの都内を中心としたエリアで、決勝大会は秋葉原で行われる。 武装神姫のメッカ・秋葉原からの代表ということで、東東京代表は常に優勝候補と目される。 そういえば……俺がどうしようもなくなっていた、先週の日曜日、その秋葉原の決勝大会が行われていたはずだ。 この映像は、その決勝戦、東東京代表が決まる試合なのか。 どうりで、どちらのアーンヴァルも、戦い慣れているはずだ。 動きに迷いがない。 超高高度の空中戦、と言えば聞こえはいいが、戦いにくいフィールドでもある。 障害物はせいぜい雲くらいで、お互い丸見えの状態だ。 また、高度が高い故に、空中機動の装備へのダメージは即致命傷となる。 飛べなくなったら、そのまま落下して負け、というわけだ。 ティアの主戦場、廃墟ステージなら、飛べなくなっても地上戦に持ち込む手もある。 だが、超高高度空中戦では、それはできない。 しかも、そこをフィールドとする神姫の性質からいって、超高速のドッグファイトになるのは間違いない。 そんな状況で、手練手管を駆使し、勝利を目指すというのだ。 画面で舞う二機のアーンヴァルの動きは、無駄なものがそぎ落とされ、シンプルで精緻な機動になっている。 しかし、二機の間には、様々な戦術戦略が火花を散らしているようだ。 まさに激戦区の決勝戦にふさわしい。 だが、勝負はそれほど長く続かなかった。 白のアーンヴァルの方が一枚上手のようだ。 黒のアーンヴァルの方が手数が多いが、白の一発の精密射撃が黒の翼を捕らえた。 急速に移動力を失った黒天使に勝ち目はない。 白天使は的確なショットを決め、黒天使の飛行能力を奪い、勝利した。 ウィンメッセージが画面を埋める。 そして、大写しになる白いアーンヴァル。 カスタムなのか、可愛いというより美しいという形容が似合いそうな、神々しさすら感じる顔立ち。 不意に浮かんできた言葉と、その神姫の通り名が一致した。 俺はその武装神姫を知っていた。思い出した。 「クイーン……アーンヴァル・クイーンの雪華か……!」 海藤は無言で頷いた。 ■ 黒い言葉がディスプレイの画面を埋めていた。 恨み、憎しみ、悲しみ、怒り、それのどれでもなく、ただ「悪意ある」としか形容のしようがない、言葉の羅列。 もう、わたしの名前は知られていた。 マスターからもらった名前が、黒い悪意で汚されているように見えた。 『今週号の袋とじも、ティアちゃんエロス』 『今週のティアは神。エロ神』 『ていうか、ティアは漏れの性奴隷』 『漏れの神姫もティアみたいに性奴隷調教したい』 『ティアに白濁液かけたい』 『自慰用コネクタでマスターにレイプされる画像希望』 改めて思い知る。 わたしは、男の人に奉仕する事ばかりを望まれている神姫なのだと。 胸の奥が痛む。 昔は感じたことのない痛み。 お店にいる頃は、男の人に奉仕することしか知らなかった。 だから、自分が汚れた神姫だと言われても、そうなのだとしか思わなかった。 わたしは、マスターの下で少しだけ変わってしまった。 思い上がっていた。 自分が人並みの、武装神姫だなんて、そうなれるなんて。 あるはずがない。 この痛みは、わたしの思い上がった自信過剰の証だ。 わたしはさらに読み進めていく。 例の雑誌は週刊で、今週号にも、わたしの浅ましい姿が掲載されたらしい。 死ぬほど恥ずかしい。 嫌がりながらも、悦楽に屈し、あられもない痴態をさらした自分の姿。 それを不特定多数の人達が見ているのだと思うと、頭の回路が焼き切れそうな思いだ。 わたしはさらに掲示板の表示をスクロールしていった。 そして……愕然とする。 □ 『クイーン』の二つ名で呼ばれる神姫は有名だ。 彗星のように現れた期待の新人、というふれこみで、半年ほど前から雑誌に載っている。 俺が購読している「バトルロンド・ダイジェスト」で密着取材を行っており、バトルの細かい内容まで毎号掲載されている。 その凛とした佇まい、ストイックな性格、そして特徴的な装備と、圧倒的な実力から、誰からともなく『アーンヴァル・クイーン』と呼ばれるようになった。 その神姫の名前は雪華という。 今シーズン、雪華はセカンドリーグの全国大会にエントリーすると公言した。 正直、密着ドキュメントは雑誌の企画だと思っていた読者も多い。 だから、強いといくら書かれていても、あまり信じられてはいなかった。 だが、バトロンダイジェストに掲載された、公式戦での結果は、俺をも戦慄させるのに十分だった。 いまやクイーン・雪華は、全国大会チャンピオン候補の筆頭だ。 「無冠の女王」の名を廃するべく、真の女王への階段をかけ上がっている、というわけだ。 「……それで、クイーンの決勝戦に何があったって言うんだ?」 俺は海藤に向かって首を傾げる。 海藤はテレビの方を指さした。 「まあ見ていてごらんよ。問題はこの後さ」 釈然としない気持ちで、俺はテレビに向き直る。 ちょうど、クイーンとそのマスターに勝利者インタビューが行われるところだった。 『優勝、おめでとうございます!』 インタビュアーの月並みな祝福に、笑顔で応えるマスターと、あまり笑みを浮かべずに『まだ通過点です』とストイックに応える神姫。 いくつかの質問がかわされた後、インタビュアーはこう言った。 『全国大会本戦まで、あと一ヶ月半あります。その間、どのようなトレーニングをされますか?』 また当たり障りなく答えるだろう、と思っていた。 人の良さそうなマスターは言った。 『そうですね……各地のホビーショップやゲームセンターに出向いて、武者修行しようかと思っています。公式戦に出ていない神姫と戦ってみたいので』 『たとえば、T県の『ハイスピードバニー』ティア、K水族館所属の、イーアネイラのアクア……』 「な……!?」 マスターの言葉を引き継いだ雪華の言葉に、俺は思わず腰を浮かせた。 『S県の『不倒要塞』ゼラーナ、『木の葉落とし』の楓(かえで)。 東京T市の『風の守護者』シリウスに、放浪の神姫『エトランゼ』のミスティ……他にも戦ってみたい神姫はいます』 『なるほど、首都圏各地で、チャンピオンの戦いが見られるかも知れませんね!』 インタビューが終わっても、俺は腰を降ろすことが出来なかった。 背を伸ばして立ち上がり、海藤を見る。 「見せたいと言ったのはこれか、海藤……」 海藤は頷いた。 「やはり知らなかったみたいだね。それで……どう思う?」 「どう思うも何も……」 一介のバトルロンドプレイヤーにすぎない俺達を、東東京チャンピオンが直々に指名? 映像を見せられても、にわかには信じがたい。 しかも理由がわからない。 公式戦に出ていない神姫とはいえ、公式戦上位の神姫達に実力で勝っているとは思えない。 チャンピオンは何が目的だ? 「まったく信憑性がないというか……意味がわからない」 「……やっぱり、君にも心当たりはないか……」 「海藤もないのか? いまバトルロンドやってないアクアも呼ばれていたのに」 「まったくないよ。もしかしたら、昔のころの噂を聞きつけたのかも知れないけど、それだったら、そのころの二つ名を呼ばれると思うし」 確かに、雪華はご丁寧に、神姫の二つ名も一緒に言っていた。 しかも、アクアには「K水族館所属」と言っていたから、現在のアクアと手合わせしたい、ということなのかも知れない。 「だけどなぁ……」 俺はソファにどっかりと座り直した。 「俺達はいま、ゲーセンにも出入り禁止の身だ。それに……チャンピオンが今の状況を知っても戦いたいとは思わないだろうな……」 海藤もため息をついて言った。 「僕は、たとえ対戦を挑まれても、断るつもりだよ。もう、長らくバトルロンドはやっていないし、もうやる気もないしね……」 お茶を淹れよう、と言って、海藤は立ち上がった。 俺は考える。 東東京代表にして、優勝候補最有力の神姫とバトル出来る、というのはとても魅力的に思う。 だが、今の映像をみただけでも、勝負になりそうにないことはわかる。 クイーンの戦闘力は圧倒的だ。あらゆる局面において、実力を発揮できる。 ティアのように、都市のステージだけでしか戦えない神姫とは違うのだ。 そもそも、今俺達が置かれている状況からして、対戦などかなうまい。 クイーンはそのことを知らないのだろう。 ……そこで俺はふと疑問に思うことがあった。 海藤がコーヒーを持って戻ってきた。 俺は、ドーナッツの箱を開けながら、その疑問を海藤にぶつけてみる。 「なあ、海藤」 「なんだい?」 「なんで海藤は……バトルロンドをやめたんだ?」 コーヒーを配る海藤の手が、一瞬止まった。 ■ 「なんで……どうして!?」 思わず声に出た。 見上げた視線の先、ディスプレイに表示された掲示板の書き込み。 そこに書かれていたのは…… 『使用済みの「中古」神姫のオーナーになるなんてマジあり得ない』 『遠慮なく神姫にぶっかけられるからじゃね?』 『いやいや自慰コネクタで直結中出しだろ』 『ティアのオーナーはHENTAI』 『ティアと毎晩エロエロできるマスターうらやましい』 『マスターは神姫陵辱犯でタイーホ』 ……マスターのこと何にも知らない人達が。 勝手にマスターのことをけなして、嘲笑ってる。 やめて。 やめてやめて。 マスターは何も悪くない。 わたしは、マスターに嫌なことなんて何もされてない。 あんなにまっすぐ、わたしを見てくれる人、他に知らない。 わたしに、武装神姫としての喜び、ランドスピナーで走ることの自由さ、世界の色、そして風の心地よさを教えてくれた。 マスターはいつだって、正しくて、まっすぐなのに。 後ろめたいことなんて、何もしてないのに。 なぜ、傷つけるの。 どうして言葉で貶めるの。 胸が、さっきとは比べものにならないほど、痛くなる。 まるで心を鷲掴みにされて、握りつぶされるかのよう。 いままで、さんざん痛い思いをしてきたけれど。 どんな痛みより辛くて。 こんな痛みには耐えられない。 涙が止まらなかった。 わたしが責められるのはいい。汚いって言われるのは仕方がない。ほんとうのことだから。 だけど、マスターが責められるのは違う。間違ってる。 みんな、間違ったことを口にして、平気で盛り上がってる。 悔しい。 わたしは、こんなに間違っていることに、反論の一つもできない。 無力すぎて。 泣いてしまう。 涙腺が壊れてしまったかのように、雫は次から次へと溢れてきて、わたしの顎から玉となって落ちてはじけた。 そして、わたしは泣きながら、考える。 マスターを、こんな目に遭わせているのは、だれ? あんなにまっすぐな人をねじ曲げている、憎い相手はだれ? そして。 思い至る。 わたしだ。 まるで、泥に汚れた手で、白いハンカチを掴んでしまったように。 マスターを汚しているのは、このわたしだ。 マスターを敬愛していた。尊敬していた。 マスターと共にいるのが嬉しかった。認められることが喜びだった。 そのすべてが、マスターを汚し、貶めていた。 そして神姫を取り巻くすべてを、マスターの敵にした……。 ああ、だから。 最近のマスターは、あんな冷たい目でわたしを見るんだ。 だから、何も言わず、すべてを諦めてしまっているんだ。 そして。 痛みに耐えられなくなって。 わたしの心はつぶれてしまった。 次へ> トップページに戻る
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<閑話休題:とある種子の記憶> 私は武装神姫だと皆が言います。 ですが、私は外の世界には出られません。 データの中でしか生きられず、本当に神姫としての身体があるのかどうかすら自分では確認する術を持たない私は、本当に神姫なのでしょうか? 私は・・・ はじめまして、私の名は種型神姫ジュビジーの草雷と申します。 マスター定義が未設定状態のままな為に、どなたが名付けてくださったのかは存じあげませんが、蕾をイメージした名前だそうです。 少々特殊な仕事をさせていただいておりますが、一般的に普及している種型と差異はございません。 ただ一つ、現実世界で動き回ることが出来ない点を除けば、ですが。 お聞きした話によると、私の身体は外の世界で眠ったままだそうです。 ”咲かない花はない” よくあるフレーズですが、芽の出ない種はずっと土の中に埋もれたままなのですね。 土があり、光が射し、水を与えられても、種が偽物なら芽は出ません。私もそういう事なのではないでしょうか。 息抜きの為という名目で実施されるバーチャルバトル。私からすれば唯一他の神姫と関われる貴重な時間です。 今日もデータのみで構築される世界で偽物の空を見上げ、本物と呼んで良いのか判らない力を振るいます。 しかし、相手の方々はいつも不満そうな表情でログアウトされていくのです。 やはり私は普通の神姫とは何処か違うのでしょうか? この事を質問してみると、謝られてしまいました。それ以降は口に出しておりません。 今日から数日、私の起動を請け負ってくださってる方がいらっしゃらないそうなので、その間お休みさせていただくことになりました。 今度目が覚めた時には、外の世界を体験する事が出来るでしょうか。 師匠と弟子
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『模倣技』 響から聞いた話で行き着いた尊の新たな戦術。ネットやシミュレータに記録されている様々な神姫の必殺技、スキル、得意技を蒼貴、紫貴に見せる、或いは受けさせる事で学習させ、自分達の使えるようにアレンジして使用する。 何でも真似できるわけではなく、雷や炎が伴うような大技はCSCの使い方もあり、基本的にコピーできず、武器を用いた技は蒼貴と紫貴の持つ武器の範囲内でアレンジしないと使えない。 また、アレンジしたものであるため、オリジナルと比べると、その技の熟練度の差、アレンジによる劣化などの問題がある。 『蒼貴』 先打(さきうち) 蒼貴がティアの技『ノールックショット』を見て取得。相手の動きを先読みして、何も見ずにその位置に飛び道具を放つ ↓ 元ネタ:『ノールックショット』(『ウサギのナミダ』の主人公 ティアが使用する技) 誘牙(ゆうが) 響から聞いたB3のトリックから蒼貴が取得。神力開放状態において苦無を巻いて、本命の手裏剣を当てる。 ↓ 元ネタ:名称不明(少年と疾走姫にて『不良品』のB3が使用した技) 捻脚(ねんきゃく) 燐の技『隼』を見て蒼貴が取得した。空中で身体のバランスをわざと崩して回転しその遠心力を加えた後ろ回し蹴りを放つ。 その軌道は予測できず、上からかかと落としの様に放つこともそのまま水平に繰り出すか、その軌道は受ける直前にならなければ分からない。 ↓ 元ネタ:『隼』(武装神姫のリンの主人公 リンが使用する技) 霰舞(あられまい) シルヴィアの技を見て、蒼貴が取得した。大きく跳躍し、頭上で勢いに乗ったムーンサルトを用いた三連撃のダンスを見舞う。 ↓ 元ネタ:名称不明(ツガル戦術論の主人公 シルヴィアが使用した技) 『紫貴』 『エアロスティング』 モルトレッドの技『スティンガーテンプテーション』から尊がアレンジを思いつき、紫貴が取得した技。エアロヴァジュラで目にも留まらない高速の打突を殺到させる ↓ 元ネタ:『スティンガーテンプテーション』(『The Armed Princess―武装神姫―』のモルトレッドの使用技) 『ストームトリック』 リンの技『裂空』を見て紫貴が取得する。基本的にはわざと相手に隙を見せることにより相手が攻撃準備に入るために足を止める瞬間を作りだし、強靱なサブアームのばねを生かして瞬時に相手の背を取る技。 ↓ 元ネタ:『裂空』(『武装神姫のリン』の主人公 リンの使用技) 『サイクロンクロウ』 脚力と周りの長い得物を利用した反動で自分の身体を対象に飛ばし、その勢いでサブアームクローで突き刺す技。反動を利用をした咄嗟の攻撃としても使える。 ↓ 元ネタ:『デーモンロードクロウ』(『15cm程度の死闘』の主人公 エルの使用技) 『ブラッドウインド』 ニーキが用いる『血風懺悔』を見て、尊がアレンジを思いついて取得。アサルトカービンを突き出してそれによる打撃で体勢を崩し、至近距離で連射する。 ↓ 元ネタ:『血風懺悔』(『15cm程度の死闘』のニーキの使用するスキル) 『連携技』 『フェイタルスラッシュ』 紫貴が蒼貴を敵めがけて投げつけ、高速で突撃し、すれ違い様に忍者刀で居合い斬りを放つ。 突撃時の相手の行動への対応力が高く、回避行動をされている中でもある程度のコントロールが利く。 ↓ 元ネタ:『居合い抜き』(『鋼の心 ~Eisen Herz~』のフェータが使用) トップ
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戻る TOPへ 次へ 「シルヴィア、策敵能力ではかなわない。初撃はくれてやれ」 注意を促され、先ほどサブモニターに表示された敵神姫、マスターミラーの背面装備を思い出す。アーンヴァルの高い索敵性能をさらに強化する情報戦仕様の機動ユニット。ミサイルの最高射程は私のレールガンを超えるものと予測。 マスターの指示はつまり「まずは回避に専念しろ」。指示を実践するため敵と遭遇する前に速度を確保する。スラスターミリタリー。巡航出力。 バトルフィールドは大小の建築物が立ち並ぶ「ゴーストタウン」。地形を回避に利用すべく低空を飛行。 果たして、策敵距離外からの攻撃が飛来した。突然のレッドアラート。 「シルヴィ、6時の方向に飛行体。恐らく対空ミサイル。回避!」 回避行動。急旋回しつつ建築物の合間にダイブ。メインストリートの舗装路すれすれを飛ぶ。ミサイルの爆発音を確認。回避完了。廃ビルの狭間に身を潜ませながらミサイルの発射された方角へ加速する。レーダーに反応。地表効果を利用し急上昇。エンゲージ。 交戦開始。 ツガル戦術論 鏡の試練 前編3 空中射撃戦は始終こちらのペース。お互いに苦手な中距離戦だが、武装の特性上、シルヴィアの方が若干有利だ。散発的に飛んでくるミサイルを撃ち落しつつ回避しつつ、ライフルと高速貫通レールガンのコンビネーションで撃ち返す。中距離での高機動戦ではミサイルのロックオンは難しく機関銃の危険度が下がる。当初の作戦通りだ。しかしマスターミラーのエネルギーシールドはハイパワーレールガンすら易々とはじく。あのシールド、小型の割に出力がある。 「キサラギ社のエネルギーシールド、『ミラー』だな」 コア思想に基づく武装を数多く作り出す企業、キサラギ。最先端の技術と柔軟なコンセプトで高性能のパーツを続々と世に送り出しているが、言い換えればキワモノ揃いであるこれらのパーツ群を使いこなせる神姫は少ない。エネルギーシールド『ミラー』は《ミラー・オブ・オーデアル》マスターミラーの象徴とも言うべき武装なのだろう。まるで手足の延長のように扱っている。ゆえにお互い未だ直撃無し。中距離射撃戦では埒があかない。気になるのは敵神姫が積極的に距離のコントロールを行わない点だ。中距離があちらの苦手距離だと言うのは承知のはず。敵はシールドで防ぎ続けて弾切れを狙っている? いいや、強力な長距離武装を持つ神姫ならば、そんな回りくどい方法を取らずとも一方的に攻撃出来る筈だ。と、言う事は。 「敵は、おれ達を誘っている」 こちらが近距離に飛び込むのを待っているのだ。火器管制能力の向上が見込める情報戦装備と、弾幕を張れる軽量機関銃を併せ持つ神姫に接近するのは決死的だ。だがこの状況ではそれしか方法は無い。覚悟を決める。スラスターを開放。マグネティックランチャーを盾に吶喊。前回の決勝戦で見せた必殺技。速攻で決める。 こちらの頭部を的確に狙ってくる機関銃。だがかえって射線が捉えやすく盾で防ぎやすい。致命的ダメージを負わずにクロスレンジに突入。僥倖。 マグネティックランチャー、フルパワー。格闘の間合いで発射。が、シールド『ミラー』で防がれる。しかしこれはコンボのきっかけに過ぎない。パワフルな質量弾を防いだせいで『ミラー』の出力は一時的に下がり反発力が弱まっているはず。そこを狙う。全身のスラスターをさらにマキシマムへ。追撃開始。盾にしていたランチャーでシールドタックル。ランチャーと『ミラー』が接触。予測通り敵のシールドに反発力は無い。これなら、行ける。 シールドとフレキシブルアームを巧みに使い敵のシールドを左腕ごと跳ね上げさせる。その勢いを殺さずスラスター制御、宙返り開始。背面フォービドブレイド、一閃。これは機関銃の銃身を犠牲にして防がれる。そして本命攻撃、身をねじり両腕に構えたライフルをボディ目掛けて連射。セミオートで3連発、必殺の合計6発。だが相手も身を翻し、背面機動ユニットを盾にする。機動ユニットに致命的ダメージを与えるも、敵素体にダメージ無し。なんてセンスだ! 戦場は高高度上空。マスターミラーは飛行制御不能に陥った機動ユニットを最後まで利用し、地表に着陸を試みている。叩くなら今。 白煙を散らしつつ落下するミラー目掛けてパワーダイブ。スラスターを再度マキシマムへ。マグネティックランチャー充電。必殺の距離で叩き込んでやる。 しかし、シルヴィアの鋼の闘志はミラーの一言でくじけた。 「お前の動きはすべて見切った」 どこまでもクールな目線でこちらを見据えつつ、彼女はこう言ったのだ。 敵は戦意を喪失してない。まだ切り札がある!? 激しい動揺。突入機動を強引に捻じ曲げそのままオーバーシュート。マスターミラーよりも先に下界に到達する。ゴーストタウン中央に位置する打ち捨てられた公園を選んで着地。遅れて地表に到達するミラー。ボロボロの機動ユニットでは着陸時の速度制御はかなわず、公園端にそびえる廃ビルに激突し大爆発を起す。だが、油断はしないシルヴィア。 「キョウジ、敵の行動パターン収集完了。サイドボードの展開、武装換装を要請」 ミラーの声が聞こえた。あの機動ユニットはあくまで情報収集用で、メイン武装はサイドボードに仕込んでいたと言うのか。 ゆっくりと晴れていく爆煙。身構えるシルヴィア。 だが、姿を現したマスターミラーを確認したおれとシルヴィアは言葉を失った。 背後から伸びる4本の武装ユニット。全身に装着された軽量の機動装甲ユニット。両腕には軽量ライフル。そう、これらは見慣れた武装群。それは、シルヴィアと全く同じ武装。純正ツガルタイプのデフォルト武装であった。敵アーンヴァルがツガルの武装を纏っている、だと? 驚愕。敵が何を考えているのか全くわからない恐怖。おれが気圧されしている? 敵の戦略に対して思考が全く働かない。いったい敵は何を考えているんだ!? 「シルヴィア、敵の奇策だ! 見掛け倒しだ!」 弱気になってる自分を奮い立たせるように叫ぶ。そうだ。ツガルタイプの武装を一番使いこなせるのはシルヴィアのはずだ。アーンヴァルが一朝一夕で物に出来る武装では無い。これはおれ達の動揺を誘っての奇策に違いない。 シルヴィアも何とかショックから立ち直り、先手を取りマグネティックランチャーを放つ。だが間合いは遠距離。その一撃はマグネティックランチャーを盾に構えるミラーに弾かれた。反撃にライフルとランチャーを駆使した精密射撃に襲われる。回避が間に合わず何発か直撃。だが駆動系にダメージは無し。すぐさま高速回避機動にうつる。だが心は動揺したままだ。ツガルのデフォルト武装はバトルではほとんど使われない。それはツガルが得意とするレンジが遠距離と近距離、と極端であるところに起因する。だから今までの戦闘で対ツガル戦闘の経験は皆無なのだ。いや、そんな事は大した問題ではない。 問題はツガルデフォルト武装を使うプレイヤーが出現した、と言う事自体だ。しかも、熟練のツガルに対してツガルをぶつけて来た。理解、不能。 マスター、指示を! シルヴィアが珍しく指示を仰ぐ。彼女も混乱してる。いつもと同じ戦略を取るか? いいや、相手はすでにツガル対策を打ち立てている。くそ、自身の思考の鈍さを感じる。 「遠距離から反撃。敵の出方を伺え」 消極的な指示。セオリー通りだが、シルヴィアの期待していた指示とは異なっていた。口を開いた後でその点に気がつく。後悔し、さらに焦る。 シルヴィア、障害物に半身を隠し、射撃。だが敵はツガル武装の軽やかな運動性で回避、そのまま接近してくる。巧みなスラスター制御。そして中距離戦。ツガルタイプの苦手な距離。 マグネティックランチャー高速貫通モードで迎撃を図る。外せば再射撃まで時間がかかる。偏差を考慮し、慎重に発射。相手も同時に発射。 敵アーンヴァル、マグネティックランチャーを斜めに構え高速貫通弾を『跳弾』させる。シルヴィアもマグネティックランチャーで防ぐが、まともに受け止めた貫通弾は盾にした銃身を吹っ飛ばした。破片が素体をしたたかに傷つけ、呻き声を噛み殺す。 敵は全身のスラスターを全開、急接近。後手に回ったシルヴィアも釣られて加速する。互いに必殺技の機動を開始。接近戦。スラスターの推力を捻じ曲げムーンサルト。タイミングは二人同時。二人の機動が交差する。フォービドブレイドによる攻防。だが、シルヴィアのほうが加速度が足らず手数が少ない。そして、 「ぐうッあぁぁああぁぁぁ!」 シルヴィアの左大腿骨切断。わずかに落ちる回転速度。続いてフォービドブレイド破損。右腕欠損。胸部スラスター全壊。背部武装ユニット動作不能。高速回転から繰り出される両刃のフォービドブレイドはシルヴィアのボディを破滅的な勢いで切断していく。 マスターミラー、スラスターによる姿勢制御できりもみ状態から復帰。ハイパーエレクトロマグネティックランチャーを構え、撃つ。頭部を狙い、フルチャージの一撃。 そこにはツガルの武装をしたアーンヴァル、マスターミラーがたたずみ。 それまでシルヴィアとして稼動していたツガルの素体が転がっていた。 ジャッジAIの判定が他人事のように下される。「勝者、《ミラー・オブ・オーデアル》マスターミラー」 いつのまにか集まったギャラリーが沸いた。 シルヴィアの意識が電脳空間から素体へ戻ってきた。 だがおれは、呆然とするしか出来なかった。 続く 戻る TOPへ 次へ